一時的に利益が上がっても顧客の信頼を失うことも

 記者の皮膚感覚でいえば、高速バスは閑散期には驚くほど価格が安いと感じることがある。逆に、プロ野球のチケットは価格が上がり過ぎて、「観戦はもう無理」と感じることが多くなった。いずれも価格は変動しているはずだが、自分が購入したいと考えるタイミングによって印象は大きく変わる。何しろ、今どきのAIを駆使したダイナミックプライシングは分単位で刻々と価格が変動しているからだ。

「いまは社会や消費者に受け入れられる価格変動とは何かを試行錯誤している時期だと思っています」

 デジタルマーケティングに詳しい東京工科大学の進藤美希教授はこう話す。

 AIを使ったダイナミックプライシングが本格化したのは2010年代以降。だが、サービスや商品に対する需要が時間や場所によって変化し、それに合わせて価格が上下するのは今に始まったわけではなく、有効な価格戦略であることも広く共有されている。DX化やデジタル技術の進展に伴い、これまでとはケタ違いの幅と頻度で価格変動させる企業が増えるのは不可避だとしても、どの程度の変動がふさわしいのかは個別のサービスや商品によって見極めていく必要がある、と進藤教授は唱える。

「一時的に売り上げや利益が上がっても、それが10年、20年と継続するブランドを確立し、顧客と共に育っていく企業にふさわしいかどうかはまた別問題です。大幅な価格変動を繰り返すことで長期的な信頼を失ったり、ブランドイメージを損なったりすれば企業にとっては本末転倒です」

 例えば、数年前まで1泊8千円前後だったビジネスホテルが数倍の価格を提示する場合、客室やサービスのクオリティーに変化がなければ長年利用してきた顧客の不信をかうリスクもある。

「3万円払うのにふさわしいと感じてもらえるサービスをホテル側が努力して提供しなければ支持を得られません。ブランドが傷つくと言っても過言ではないでしょう」(進藤教授)

(編集部・渡辺豪)

AERA 2025年1月27日号より抜粋

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