AERA 2025年1月27日号より
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 物価高や円安、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2025年1月27日号より。

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 1月上旬、日本の長期金利が約15年ぶりの高水準に達した。10年国債の利回りはおよそ1.2%、30年国債なら2.3%ほどで取引されている。仮に100万円を2.3%の利率で30年間運用すれば、単純計算で約198万円になるから、ほぼ倍に増える計算だ。指標金利となる国債金利の上昇は、預金金利にも影響するはずだ。

 一方で、最近よく耳にするのが「インフレが進んでいるから投資しないと損だ」という声だ。近年の投資ブームには、「お金の不安をあおる」動きが透けて見える。銀行や証券会社は、もしインフレ率が2%のまま10年間続けば、預金の実質価値が2割ほど減るなどと盛んに宣伝してきた。「運用しないとどんどん損をする」という理屈は一見すると、正しそうだ。しかし、本当にそうだろうか。

 昨年の流行語大賞を取ったドラマ「不適切にもほどがある!」は、1986年の東京を舞台としている。当時、特に80年代前半の日本は、いまより高いインフレ率(3〜5%程度)が続いていた。ところが預金金利もそれ以上に高かったので、銀行に預けていても資産が目減りすることはなかったのだ。つまり、物価の上昇と預金金利がある程度リンクしており、インフレが起きても預金で十分にカバーできる環境だった。

たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など

 ところが、現在の日本では、銀行の普通預金や短期定期預金が0.1%前後で、銀行は投資商品を売るほうに熱心だ。しかしながら、昨今のインフレによって、日銀は利上げを始めており、10年国債や30年国債の利回りは上がってきている。

 確かに投資にはインフレに打ち勝つ可能性があるものの、元本割れのリスクも同時に抱える。株式や投資信託が値下がりすれば、大切な資金が大幅に減ってしまう恐れがある。だからこそ預金には「元本を守る」という強みがあるわけだ。

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