20年前、バングラデシュの雑踏で途方に暮れた。その道は東京・銀座につながっていた(写真/東川哲也)
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 マザーハウスCEO・デザイナー、山口絵理子。2006年に創業したマザーハウス。途上国の素材を生かすこと、現地で生産することにこだわり続けている。途上国という一見弱い存在でも、その技術や素材が世界に通用することを証明するために、山口絵理子はずっと闘ってきた。一人の思いから始まったマザーハウスは、今、国内外に53店舗、900人のスタッフを抱えるまでになっている。

【写真】マザーハウスのファンが集まる「サンクスイベント」の様子

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 東京・秋葉原の大通りから奥に入ったビルの一室。朝8時からカタカタとミシンの音が鳴る。

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念に、2006年に創業したマザーハウス。バングラデシュやインドなど6カ国の生産地から、その土地固有の素材を生かしたバッグやジュエリー、服を生産から販売まで一貫して自社で行い、国内外53店舗を展開する。同社の創業者である山口絵理子(やまぐちえりこ・43)は二つの肩書を持つ。一つは代表取締役、もう一つはデザイナーだ。ミシンを鳴らしていた主は、その本人だった。

年に2回、マザーハウスのファンが集まる「サンクスイベント」には、途上国の職人たちも登壇。2024年秋の開催時には6カ国から参加し、会場は温かな喝采に包まれた(写真/東川哲也)

 山口はとにかく途上国の現地へ足を運ぶ。ここ数カ月だけを切り取っても、昨年9月はバングラデシュ、10月はインド、11月はウズベキスタンと1週間単位で行く。その合間を縫うようにアメリカ出張もこなす。現地に行く理由は、それが山口のデザイナーとしてのスタイルだからだ。

 素材を生かす──この一点に山口はこだわってきた。海外に生産拠点を置くブランドは「自国で製品のデザインを決め、その型に合う素材を現地で探す」という手法をとるのが一般的だが、山口は真逆だ。現地で出合った素材と伝統的技法の強みをまず見極め、その魅力を引き出すデザインをつくる。たとえばインドではガンジーの時代から伝わる手紡ぎ手織りのコットン素材に様々な技法の洗い加工を施し、大胆で個性的な色柄のコートやワンピースを生み出した。

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