各国首脳もそれをわかっているから、トランプ氏に面会しようと列をなす。フランスのマクロン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領は12月、パリで3者会談を実現。米国は経済、技術、軍事のどれをとってもスーパーパワーであり、世界を動かす「能力」がある。問題はそれを正しく行使する「意思」が急速に後退していることだ。
トランプ氏は当選が決まるやいなや、「カナダやメキシコからの輸入品に25%の関税をかける」と表明。カナダのトルドー首相が急きょ渡米してトランプ氏に面会したが、その後もカナダを「51番目の州」と呼んで揺さぶりをかけ続けたこともあって、トルドー氏は年明けに辞任表明に追い込まれた。
台湾有事に高関税も
トランプ氏はデンマークの自治領グリーンランドの獲得にも意欲を示し、デンマークが要求に応じなければ高関税をかける考えを示している。背景には中国、ロシアへの対抗や希少鉱物への関心があると見られているが、真意はよくわからないのが「トランプ流」だ。
一つひとつの発言を真に受けて対応すれば、逆にトランプ氏の術中にはまりかねない。世界はトランプ氏の一挙手一投足に注目せざるを得なくなり、そのことでトランプ氏の求心力は高まって、交渉力が増していく。そのうえでトランプ氏は対応を変えていくのだから、もとから真意などないのかもしれない。
1期目のトランプ政権は、奔放なトランプ氏を羽交い締めしようとする側近が存在したが、2期目は彼への忠誠心を重視して布陣している。このためトランプ氏の暴走に歯止めがきかなくなる恐れがある。
そこで何をするか。
できるだけ「やり過ごす」ことを考えているのが、中国の習近平国家主席だろう。中国の景気が減速するなか、米中対立を過度にエスカレートさせるのは愚かしい。日本を含めた近隣国に接近をはかり、トランプ再登板のショックをやわらげようとしている。
近い将来、中国が台湾に侵攻する可能性は、ゼロとは言えない。トランプ氏は台湾重視の姿勢をとるが、それが台湾の独立宣言を後押ししたり、逆に台湾有事への不介入を鮮明にしたりすれば、中国が賭けに出る誘因となってもおかしくない。