トランプ氏と自民党右翼議員に媚びなくていい
しかし、バイデン前大統領が日本製鉄のUSスチール買収に待ったをかけたのに対して、日鉄は訴訟に打って出た。特に、買収審査の無効を求める訴訟の他に、米クリーブランド・クリフスと同社のローレンソ・ゴンカルベスCEOらを、買収を違法に妨害したという理由で訴えたのがどう出るか。
トランプ氏に近いゴンカルベス氏は、「日本は1945年以来何も学んでいない」「中国は悪いが、日本はそれよりはるかに悪い」などと日本を罵倒したが、さらに注目すべきは、石破首相がバイデン前大統領に説明を要求したことについて、「トランプにも同じ要求をしてみるといい」「とても面白い日になるだろう」と発言していることだ。
日鉄の訴訟は、大きな賭けだ。この訴訟によって、「トランプ組長」の目に留まってしまったのは確実だろう。
自民党右翼議員たちは、トランプ氏が怒りの鉄拳を石破首相に下ろすことを願っているようだ。仮に、トランプ氏が日本に難題を突きつけてきたら、待ってましたとばかりに、「中国に媚びるばかりで、トランプとの関係を軽視したツケだ。石破首相に日本を任せてはいけない」と責任追及に動くだろう。
だが、トランプ登場により、世界での米国への信頼は地に堕ちた。前述のとおり、グローバルサウスは、米国寄りからむしろ中国に軸足をずらしつつある。
こうしたことは、米国の外交・軍事関係者も認識しているはずだ。トランプ氏のやりたい放題にしていては、米国は、経済だけでなく、外交でも安全保障でも世界での地位を大きく落とし、それがまた米国経済に跳ね返るという悪循環に陥ることを最も懸念するはずだ。
もちろん、石破首相は、わざわざトランプ氏を怒らせる必要はない。表向きはこれまでどおり、仲良くしたいと言いつつ、少しずつ中国、ASEAN、さらには中東、中南米などでアメリカ離れを強める諸国との連携を強化することだ。
そして、軍事よりも日本経済の立て直しに全ての資源を投入する。中国やグローバルサウスとの経済関係を強化することで日本経済に好影響が出てくれば、国民世論も石破外交を支持するようになるはずだ。
再び経済強国となれば、それが日本の外交安全保障の基盤となり、平和主義のブランド回復と相まって、さらに世界の国々との協力関係が強化される。
そのためには、トランプ氏の横暴をかばうことなく、日本の国民によく見せることだ。それによって、米国が絶対善だという世論の常識を変えることができ、対米自立への支持を広げられる。ゴンカルベス氏の発言も米国の本性を知らせる良い材料として使うべきだろう。
石破首相には、自民党右翼議員に媚びることなく、また嫌中世論を恐れることなく、初心貫徹で、対米自立外交を目指してもらいたい。