直近の3首相が高めてしまった「嫌中感情」
さらに明確になってきたのは、石破首相が、持論の「米国からの自立」を求める外交を本気で進めているということだ。
トランプ大統領が就任する時に、中国との関係改善を怒涛の如く進めれば、トランプ氏の逆鱗に触れ、無用な難題をふっかけられるかもしれない。
だが、それを石破首相は承知の上で、中国、そしてASEAN加盟国との関係強化を最優先で進めている。今年のASEAN議長国のマレーシアとASEANの大国で日本の大事なお得意様であるインドネシアへの訪問が、新年最初の外遊となった。報道では、南シナ海で中国と領有権問題を抱える両国との間で安全保障協力を強化するのが目的だとされるが、それは日本側の解釈に過ぎない。なぜなら、いくら日本が働きかけたところで、両国は決して米国寄りの立場をとることはないからだ。
パレスチナでの戦闘をめぐり、イスラム組織ハマスとイスラエルの停戦合意が成立したが、残虐なジェノサイドを続けてきたイスラエルを支援する米国に対しては、グローバルサウス諸国の批判が高まった。特に、国内にイスラム教徒を多数抱える国ほどそうである。マレーシアとインドネシアはその代表格だ。両国政府は、中国と領有権問題を抱えるが、決して米国追従にはならず、米中いずれにも与せずという立場を明確にしてきた。
最近では、両国民の米国に対する反感は高まっており、米国と中国のどちらを取るかと聞かれて中国と答える国民が増えている。
1月6日には、インドネシアのBRICSへの加盟承認が発表された。マレーシアも加盟申請中で、承認は時間の問題だ。ロシアや中国との関係強化を図る両国の狙いは、米国敵視ということではないが、少なくとも中国包囲網を狙う日米韓同盟とは距離を置く意思表示だと見ても良い。米国も、そのように捉えるだろう。
石破首相がこの両国を選んだ意義は極めて大きい。日本が米国からの自立を図るには、中国との関係を安定させることが大前提だということは先週のコラムにも書いたが、それと同時に、米中の狭間で中立的外交を堅持するASEAN諸国との信頼関係を強化することが非常に効果的だ。
中国に加え成長を続けるASEANとの関係強化を着々と進める石破首相は、トランプ氏との面会を焦る必要はない。今後は、他のASEAN諸国やインド、豪州、カナダ、メキシコ、英独仏など欧州主要国との絆を深める時間に費やすべきだ。
ただし、対中関係では、そう簡単にはいかない事情もある。日本の世論と自民党右翼議員の存在だ。
安倍政権以降、菅義偉、岸田文雄までの3代の首相が、嫌中世論を高めてきた結果、今や国民の大多数が、中国は怖い、狡い、信頼できないという固定観念にとらわれている。米軍関係者が唱え始めた台湾有事という、根拠も定かでない絵空事も、自民党右翼政治家が米議会議員と共にこれを煽ることで、日米主導の台湾独立運動が起きるという中国側の懸念を呼び、過剰反応を引き起こした。こうした無意味な相互作用により、台湾も日本も軍備増強を余儀なくされ、米国は、両者に武器を大量に売りつけて利益を上げ続けるという構図が定着している。