2011年4月の世田谷区長選で初当選した保坂展人氏は、15年4月、2期目の区長選で自公推薦候補に圧勝した。『脱原発区長はなぜ得票率67%で再選されたのか?』はその保坂区長の直近のインタビューをまとめた本。
 有権者が政治に期待していることの上位は〈社会保障関係ですよね。介護・福祉や年金、子育て支援。次に来るのは、景気、物価〉。逆にいうと〈憲法改正とか安全保障などについては、政治や国のあり方としては大変重要なテーマではあるけれど、そんなに順位は高くはないわけですね〉。
 かくて2期目の区長選のキャッチフレーズは「せたがやYES!」。〈「安倍NO!」をNGワードにしました〉。支持者の中には区長選を与野党対決の場と見る人もいたが、それは万人が共感できる言葉ではない。〈重要なのは、自治体行政は公平でなければならず、「安倍YES!」の人も「安倍NO!」の人も平等に大切にされる現場だということです〉
 内申書裁判の原告から、いじめ、教育問題などを扱うジャーナリストへ。1996年、社民党の国会議員に転身した後の舌鋒鋭く与党を質問攻めにする姿を覚えている人には意外かもしれない。が、彼も学んだのである。〈自分が安全地帯にいて、批判だけをくり返していても、子どもの生命は救われない。これまでの考え方、意見の言い方を思いきって、切り換えました〉。国会議員になった際も〈なんとか具体的な姿形をもって解決へ歩んでいく、目に見える成果を作りたいと思っていました〉。
 はっきりいって、いま「安倍NO!」をいうのは簡単なのだ。でも、NOでは勝てない。野党が負け続けている過去数回の選挙でもそれは実証済み。89万人という、いくつもの県や政令指定都市より多い人口を抱える世田谷区。
 初当選した際、区職員にいった言葉は〈行政は継続です。これまでの仕事の95%は継承して、5%は大胆に変えます〉。
 リアルな政治の現場で政策を実現するにはどうするか。市民にも有効なヒントが詰まっている。

週刊朝日 2016年9月16日号