就職先探しで大手メーカーなどを訪ね、いくつか内定をもらったが、3年生からのゼミで指導を受けた労働経済学の島田晴雄助教授(当時)から「大学院にいくのもいいのでは」と言ってもらい、労働経済学は面白かったので大学院を受けた。指導教授は商学研究科の佐野陽子先生で、引き続き教えを受けた島田先生に「高齢者の就業行動についての経済分析をやってみないか」と言われたのが、現在の研究テーマに繋がっている。
大学院商学研究科の修士課程を修了し、80年4月に商学部の助手。85年4月に商学部助教授になって「現代労働市場論」の講義を始め、89年からゼミを持つ。その後、労働経済学の講義を佐野先生から受け継いだ。
公職での研究成果をまとめた共著で最高水準の賞も得る
慶大には、経済学部と商学部の計量経済学の研究者が集まる産業研究所があり、当時、「日本の計量経済学の最高峰」との評価を得ていた。次回に詳しく触れるが、自分もその一人になる。分析に使った政府統計の個別データも、おそらく産業研究所の信用で使えるようになったのではないか。
公的な職も歴任した。その一つが、95年10月に就いた経済企画庁経済研究所(現・内閣府経済社会総合研究所)の客員主任研究官。ここでの研究の成果を共同研究者の山田篤裕氏(現・慶大教授)との共著『高齢者就業の経済学』として出版し、経済系の研究書として最高水準の日経・経済図書文化賞を受賞。
2009年5月、慶應義塾の塾長に就いたときは、リーマンショックで08年度末現在、保有有価証券に大きな含み損を抱え、減損処理もしなければならず、創立150年記念事業の多くを延期せざるをえなかった。
塾長1期目の大きな仕事は、財政再建だった。2期目になると財政も改善され、病院の建て替えや、教育研究の国際化なども進めた。
2017年に塾長を退任し、日本私立学校振興・共済事業団理事長を経て2022年7月に日本赤十字社の社長に就任。父が設計し、合理性を貫いた東雪谷の自宅で水量を蓄え、研究者への道とともに流れてきた『源流』は、いま「人間のいのちと健康、尊厳を守る」という日本赤十字社の使命に沿って、新たに広がっていく。(ジャーナリスト・街風隆雄)
※AERA 2025年1月20日号