ファッションデザイナー・アーティスト、中里唯馬。パリ・コレのオートクチュール部門に、日本人として唯一出展しているのが中里唯馬。世界からも熱い視線が注がれる。欧米がモードの本場とされる中で、アジア人であるだけで不利になる。さらにファッション産業は、世界2位の汚染産業でもある。それでもなぜ作り続けるのか。ファッションとは何なのか。自分の感性を信じ、持てる時間のすべてを創作に費やす。
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火山のマグマが噴き出したように、背中からドレープが流れ落ちるドレス。衣服に仕込まれた襞(ひだ)が、時とともに身体から飛び出して、宇宙生物のように形を変えていくドレス。
ファッション界の最高峰、パリ・コレクションのオートクチュール部門に日本人として唯一、出展を続けている中里唯馬(なかざとゆいま・39)の作る服は、これまでのファッションの語彙(ごい)を超越した、創意と挑戦に満ちたものだ。彼の生み出すスペクタクルな衣装は、ジュネーブ大劇場やボストン・バレエなど本場の舞台を飾り、レディー・ガガや羽生結弦らが着用することで、世界に発信されている。
そんな中里の日常は、年に2回、1月と7月に開催されるパリ・コレクションを中心に回っている。今年1月に発表する2025年春夏のテーマは、昨秋に旅したエジプトの白砂漠からインスピレーションを得た「大地」。ゴツゴツとひび割れた土に見いだした美を求めて、本番ギリギリまで作品に向き合っていく。
昨年11月、制作途中の中里を都内のスタジオに訪ねた。この日はフィッティングと呼ばれる工程だった。壁に張り出した25体のスケッチに沿って、スタッフが数人がかりでモデルを着付けていく。インナーにパンツ、ジャケット、そこに付け襟、ジュエリー、ヘッドピースとアイテムを重ねながら、静止した時、動いた時双方の造形をミリ単位で確認し、細かく修正をほどこす。分刻みの進行の中で、集中力を保ったまま、休みなしの4時間。作業が終わった後、中里は疲労を見せることもなく淡々と語った。
「1月をゴールとしたら、今日の段階ではまだ10%ぐらい。今日は白が基調ですが、完成までの間に色も加えていきますし、スケッチは何度も描き直します。ショーの直前でも20%の達成度ということがあり、アクシデントもいろいろ起こります。最後の最後まで気が抜けません」