江戸時代の出版業界に革命を起こす
顧客が求めるものを深く理解し、それに応える商品を提供する。さらに、その商品に「価値がある」と感じられるよう演出する。このプロセスを重三郎は見事に実践していたわけだ。
思い返せば、レンタル業界の黎明(れいめい)期はアダルトビデオが牽引役となり、その稼ぎで一般作品を仕入れるというビジネスモデルが成立した。蔦屋とレンタルビデオ店のTSUTAYAには直接的なつながりはないものの、その共通項もありそうなのは面白いところだ。
「また、重三郎は喜多川歌麿や葛飾北斎、東洲斎写楽といった才能ある浮世絵師たちをプロデュースしたことでも知られています。彼らの才能を見抜き、適切なタイミングで世に送り出すことで、新たな文化を創出しました。このような『人材の発掘と育成』は、現代のビジネスにも通じる重要な要素です。重三郎は単なる版元ではなく、優れたプロデューサーであり、マーケティングの先駆者だったといえます」(同)
第1話では、重三郎が女郎屋や引手茶屋の主人である吉原の親父(おやじ)たちが集まる「寄合」の部屋に乗り込み、女郎たちの待遇改善を訴えるシーンも印象的だった。
「『べらぼう』で描かれる蔦屋重三郎は、名家や資金といった恵まれた背景を持たず、むしろ“ないない尽くし”の状況からスタートした人物です。しかし、型破りな発想と行動力で江戸時代の出版業界に革命を起こしました。そうしたビジネスでのサクセスストーリーは若者の大好物。正しいと思えば上司にも食ってかかり、田沼のような雲の上の人物にもダメ元で突撃していく姿にも共感を覚えた人が多かったのではないでしょうか」(大手出版社幹部)