老年的超越も、考え方(意識)の加齢変化の一つであり、年をとると、①社会常識にとらわれなくなる、②自尊心や自己中心性が低下する、③思考に時間や空間の壁がなくなり意識が過去や未来を自由に行き来する、という変化が起こることで、幸福感が高くなると考えられている。

 一方で、エイジング・パラドックスについては、「幸福感の高い人が長生きできているのだ」という説もある。高齢者になったから幸福感が高まるのではなく、もともと幸福感の高い人が高齢になるまで生きられる、という考えだ。

年を重ねれば自然に幸福感が増すのは大間違い

 では、実際、90歳の私はどうかというと、年をとるほどに幸福感が増すということは全くない。そもそも何を幸福感とするかという指標の問題もある。幸福感は主観的なもので、若いころと同じ指標で考えれば、とても80代、90代になって良くなっていくものではない。もしいえるとすれば、高齢になるにつれ、物事の受け止め方が寛容になり、その指標自体が変わっているのではないか。それは人生を長く生きてきたからこその価値観で、若いころと同じ尺度や延長線上で比べるのは難しいのではないかと思う。

 少なくとも、高齢者はただ手をこまねいて年を重ねれば自然に幸福感が増すなんて思っていたら、大間違いだろう。喪失体験を受け入れたり、細かいことを気にしないようにしたり、自ら価値観を変えていったりすることで若いころとは別の意味での「幸福感」につながるのではないだろうか。

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