著者はヒラギノシリーズなど100書体以上を制作してきた書体設計士。本書では今までの仕事や交流関係を振り返りつつ、これからの理想の文字作りに挑む心構えまでを明かしてくれる。
 とりわけ「宮沢賢治の自己犠牲的な童話」や「まど・みちおの自然のままが一番いいといったような詩集」などの読書体験は「水のような、空気のような」書体作りに影響を与えた。「人間臭を消して、誰にも気付かれることなく遠い昔からひっそりとそこにあったがごとく振る舞う」こと。著者の目指す究極の文字である。
 究極に挑むことはそう簡単ではない。必要最小限の線を残すまで無駄を削る必要があるのだ。時代の変化とともに書体も変わるものだが、100年の風雪にも耐える文字を作る至難の作業に著者は挑もうとしている。

週刊朝日 2016年9月9日号

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