たとえば「サラ&アンのランジェリー」のサラとアンは双子、オーダーメイドの下着屋を開いている。お忍びでやってきたプリンセスは「アサギマダラの刺繍が入ったランジェリー」を二人に注文する。双子は自由のないプリンセスの願いをかなえ、周囲の人に彼女の物語を話して聞かせる。

「タイトルの『フランネルの紐』は最初に考えました。『大草原の小さな家』が好きだったんですが、フランネルのパジャマやシャツが出てきた記憶があって。あの頃は洋服も手作りでしたよね。フランネルという言葉の響きも可愛いので」

 作品の最後には短歌が添えられている。歌人である東さんならではの構成だ。「サラ&アン〜」であれば「永遠に花咲く布を翻しわたしを生きるわたしの身体」という一首が、物語の最後を飾る。

「『源氏物語』にも和歌が挿入されていますよね。同じようにこの本の短歌は、それぞれ物語の登場人物として詠んでいます。小説の世界を奏でるための短歌ですね」

 本を読んでいると、主人公たちの未来が少しでも明るく幸せなものであることを願いたくなってくる。

「物語に添えた短歌には私の祈りがこもっています」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2025年1月13日号

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