
「社長からも『よく観察して』と言われたのですが、引っ越し先に到着して荷物を運び込む作業をするときには、依頼者はすごく安心した表情になって、物腰も柔らかくなるんです」(同)
なぜそんな相手を選んだのか
これまでに100件以上の現場を経験した。
顔に、夫に刃物で切られた生々しい傷がある女性。骨折するまでの暴力を受け続けた女性。依頼者はみんな、心身ともにボロボロになった状態でやってくる。
なぜ、そんな相手を選んだのか。なぜ、逃げずにそこまで耐えてしまったのか。何かできることがあったのではないか――。
宮野さん自身、夜逃げの仕事をする前はある種の“自己責任論”の側だった。
「なんで気付かないのかなって。普通わかるよねって思っていました」
宮野さんはそう前置きして、きっぱりと言った。
「でも、今はまったくそうは思いません」
なぜ、考え方ががらりと変わったのか。その理由には、多くの夜逃げに関わる中で見えてきた、被害者と加害者の独特の実態があった。
(ライター・國府田英之)
※後編へ続く