「夜逃げ屋日記」から(C)宮野シンイチ/KADOKAWA

「夜逃げ」は加害者が不在にする日中

 依頼者はネットで検索して宮野さんの働く夜逃げ屋を見つけ、電話やメールで相談してくる。    

「最近では僕の漫画を読んで連絡してくださる方が、1割くらいはいます」(宮野さん)    

 引っ越し先は依頼者が指定してきたり、社長が人脈を使って手配したりとさまざまだ。大家が協力的で、アパートの居住者がみんな夜逃げの依頼者という物件もあるという。

「夜逃げ」というが、仕事はもっぱら加害者が家を不在にする日中だ。社長が依頼者と綿密に打ち合わせ、計画を練る。    

 最大のミッションは「1秒でも早く搬出を終える」こと。スタッフの誰一人、手が空いている状態は許されない。ただの引っ越しとは違う。不測の事態とは隣り合わせだ。

 荷物の量が打ち合わせより多く、トラックを往復させる必要があり、想定より時間がかかってしまうこともある。    

DV夫が「殺してやる!」とすごむ

 最悪のケースもある。    

「10回に1回くらいは、加害者が帰ってきてしまうんです。一番避けたいことですが、起きてしまうんです」(同)

 作業に当たるスタッフの1人は、その事態に備え、必ず依頼者のそばで梱包を行うのがルール。加害者が帰ってきたら依頼者を車に乗せて連れ出したり、警察を呼んだりすることもある。

 それでも、目を血走らせたDV夫が、「殺してやる!」とすごんできたり、依頼者の持ち物や下着にいたるまでを「共有財産だから持っていくな!」とごね続けたりすることもある。    

「加害者と遭遇した瞬間は、『死ぬかも』といつも思います」(同)    

 そんな危険と隣り合わせだから、依頼者も荷物の搬出作業中は神経が張り詰めていて、言葉が乱暴になったりする。 

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