外交評論家:孫崎 享さん(まごさき・うける)/1943年、旧満州生まれ。外務省に入省後、国際情報局長、駐イラン大使などを歴任。著書に『戦後史の正体』など
この記事の写真をすべて見る

 目まぐるしく変化する国際情勢。2025年はどうなるのか。情勢の鍵を握る人物について、外交評論家の孫崎享さんに聞いた。AERA 2024年12月30日-2025年1月6日合併号より。

外交評論家の孫崎享さんが選ぶ2025年注目の10人はこちら

フォトギャラリーで全ての写真を見る

*  *  *

 まず注目は、米国のトランプ次期大統領でしょう。経済、安全保障、外交面で依然として米国の影響力が大きい中、歴代の大統領以上に「トランプ氏の個性」が意味を持つと思います。

 味方だと思えば大切に、敵と位置づけたら攻撃する姿勢。カナダやメキシコに高い関税を課す意向を示すなど、波乱を起こしつつそこからの「ディール(取引)」を楽しむのがトランプ流。それらがウクライナや中東、そして米中対立の情勢変化にどう影響するか。

 中国の習近平国家主席。国際政治の流れを作る力、そして経済力でも中国の存在感はいまや非常に大きい。外交的な形での決着にならざるを得ないであろうウクライナ戦争も、和解のためには中立的で、かつ政治力を持つ人物が必要です。ロシアもウクライナを支援する米国も、その役割は中国が果たさざるを得ないと考えていると思います。

 ロシアのプーチン大統領は、NATO(北大西洋条約機構)がウクライナまで拡大せず、ウクライナ東南部はロシアの帰属にという立場を軍事的な圧力で引き続き求めていくでしょう。

 一方のウクライナのゼレンスキー大統領。「ロシアを元の国境まで押し戻す」が成就することは難しいでしょう。トランプ氏は「24時間で戦争を終わらせる」と言いますが、実際にできるのは「ウクライナへの武器供与をやめる」という意味での圧力をかけること。バイデン大統領はトランプ氏がウクライナ戦争に消極的なのを見越し、最低1年ほど戦える武器を送っている。ゼレンスキー氏には1年の猶予があるわけです。この1年で交渉に入るか、戦闘を続けるか。戦争の帰趨(きすう)はゼレンスキー氏にかかっています。

 2024年だけでも首相が3度も代わるなど混乱が続くフランスのマクロン大統領も、二つの意味で注目です。一つは、経済の低成長や格差社会で移民排斥の動きも活発になるなど、かつて米国と並び世界の基軸だったヨーロッパ全体が力を失ってきているその象徴として。一方で、国連安全保障理事会の5大国の中でフランスは12月7日にトランプ氏とゼレンスキー氏を引き合わせるなどウクライナ戦争の仲介に積極的。この動きは続けていくのではと思います。

次のページ