2024年12月30日-2025年1月6日合併号より

「研究開発では、私たちが開発した進化的モデルマージのように、規模の法則が崩れ始めた1年でした。学習するデータ量に頼るのではなく、学習したデータを使ってAI自身が思考する『リーズニング』という手法にも注目が集まっています。ChatGPTを開発するOpenAIの独走状態だったなかに、いろいろな対抗馬が生まれ始めた年とも言えると思います」

 そして使い道については。

「2022年にChatGPTが誕生して以来、生成AIは何となく盛り上がってきました。しかし去年(23年)まで、私たちの生活や仕事を実際に激変させてくれたわけではありませんでした。ChatGPTは確かに便利ですが、それでAERAの記事は書けないでしょう。AIの使い道、私たちは『ユースケース』と呼んでいますが、24年はようやくいくつかの分野で役に立つかもしれないユースケースが出始めた1年でした。25年はさらに勝負の1年です。当社も含めて、本当に『役に立つ』『おもしろい』と実感できるユースケースを生み出さなければ、何となく広まっているAIへの期待は一気にしぼんでしまうかもしれません」

 Sakana AIは24年8月、アイデア創出、実験の実行と結果の要約、論文執筆といった科学研究サイクルを自動化する「AIサイエンティスト」を開発・発表した。これも、生成AIを使った新たなユースケースの萌芽だと伊藤さんは語る。

「この技術のポイントは、科学論文の執筆を例に、多岐にわたるワークフローを自動化したことです。これは今年(24年)見つけることができた大きなAIのユースケースで、銀行や保険会社の業務効率化などに活用できます。来年は、AIが社会のなかで使えるものなんだという実感を増やしていく1年にします。そして、ワークフローオートメーションに留まらないユースケースも創り出していかなければなりません」

 Sakana AIには、いずれも共同経営者でCEOのデイビッド・ハ氏、CTOのライオン・ジョーンズ氏を始め、世界の名だたる研究者がいる。彼らはみな東京に移住し、東京で技術開発に取り組んでいる。これは、日本の未来にとっての明るい話題の一つかもしれない。

「僕は日本をもう一回テクノロジー大国にしたいんです。日本から世界屈指の技術を生み出して、日本の企業や社会特有の課題もAIで解決する会社になりたいですね」

(編集部・川口穣)

AERA 2024年12月30日-2025年1月6日合併号より抜粋