イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 え……そうなの? ……あと1年近くあるね……。「次のお客様、どうぞ!」。予定通りの注文をするとすぐにカレーが運ばれてきた。銀のカップに生卵が別添えになっていて、それを自分のよきタイミングでカレーにかけるスタイル。

「そうか……来年の10月か……けっこうまだまだ来られるな……」。なんとも言えない気持ちでボンヤリと生卵をかけると、カレーの丘を卵が滑り降り、皿から溢れ、カウンターに注ぎ、そのまま私の膝の上に流れ落ちた。慌てて足を閉じ生卵を受け止めると、黄身が割れ、股ぐらシミだらけ。股間がマーブル模様。とにかく早く食べ終え猛スピードで一旦帰宅し、着替えて次の仕事へ向かう。結果、大遅刻。惜別の情を若干早くもよおした結果、大変なことになってしまった。誰が悪いわけでもない。ただのボタンの掛け違い。

 この日を境にこれからは7、8人の行列なら並べるような気がする。あと半年、この店に何回通えるだろうか。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!

週刊朝日  2023年4月21日号

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