
Z世代の女性向けエッセイ投稿サイト「かがみよかがみ(https://mirror.asahi.com/)」と「AERA dot.」とのコラボ企画は第5弾。「10年後の女の子のために」をテーマに、エッセイを募集しました。多くの投稿をいただき、ありがとうございました。
投稿作品の中から優秀作を選び、「AERA dot.」で順次紹介していきます。記事の最後には、鎌田倫子編集長の講評も掲載しています。
ぜひご覧ください!
* * *
我が職場には支店がいくつかある。
そのひとつに、県庁所在地からバスで片道2時間半(鉄道は廃線になった)という立地の支店がある。当然ながら、この支店に配属になった人は、漏れなく引っ越しを行う。県庁所在地からの通勤はほぼ不可能に近い。
◎ ◎
「ここに異動になりゃ婚期を逃す」なんて言われ、20代の社員から恐れられている支店だ。
確かに街を歩いても、高齢者ばかりで、同年代の若者は少ない。そして、数少ない若者もほぼ既婚者で、新たな出会いの見込みは薄い。
また、マッチングアプリを活用し、出会った相手と実際に会おうかという話になっても、登録者のほとんどが県庁所在地かその近郊に居住している。よって、一目会うにも往復5時間の旅だ。
こうして改めて考えても、「ここに異動になりゃ婚期を逃す」という恐れは、妥当なものだと思う。
しかし、この恐れから免れるためのカードがある。それは「結婚」だ。
◎ ◎
だから人事面談でこんな質問が行われる。
「結婚の予定はありますか?」
その後には、もれなくその問いの理由もこう添えられる。
「異動を命じた後に結婚の予定があると言われてしまったことがあって、全員に聞いています」
それはつまり、結婚の予定があれば、その支店への異動が免れるということらしい。
だから、我が職場では、
「あの支店に行かされそうだから、早く結婚しないと」
なんて声がささやかれる。
そんな声を私はこれまで幾度ともなく聞いてきたし、私自身そんな風に思ったこともある。
そんな声を聞くたびに私はこう思う。
「あぁ、結婚って道具みたいだな」