シンガー・ソングライターの崎山蒼志さん。空想とも現実とも分からない世界に、ふと迷い込む日々を描いたエッセイ、『ふと、新世界と繫がって』(新潮社)を2025年1月16日(木)に上梓した(撮影/小財美香子)
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 TVアニメ『呪術廻戦』「懐玉・玉折」エンディングテーマ「燈」、TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第5期第2クールエンディングテーマ「嘘じゃない」などで知られるシンガー・ソングライター、崎山蒼志。オルタナ、エレクトロなどを行き来する音楽性、奔放なイマジネーションを感じさせる歌詞、テクニックと個性を共存させたギタープレイとボーカルによって音楽ファンの注目を集める崎山が、初めての著書「ふと、新世界と繋がって」を上梓した。

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 崎山が故郷の静岡県浜松市より上京した2022年秋から、新潮社の雑誌「波」で連載されたコラムをまとめた本作。楽器屋のレジ横にあった巨大なチューバのなかに店員が入っていく様子を描いた「財布とチューバ」、巨大な駅の構内で迷っているうちに、まるで悪夢の中を彷徨っている状態になっていく「ふたつの駅にまつわる体験」など、リアルと妄想が混ざり合う独創的なエッセイ集だ。

「子どもの頃から、扉や路地を見て“これはどこかに繋がっているのかな”とよく空想してたんです。もしかしたら小さい頃に読んでいた絵本の影響かもしれないですね。たとえば『よるくま』(偕成社)。夜、クマの子と一緒にクマのお母さんを探しにいく話なのですが、夢なのか現実なのかが分からない感じが好きで。モキュメンタリー(※)もけっこう観てたし、自分が体験したことや視覚情報を取り入れながら、想像や妄想を加えて書いたら面白いんじゃないかなと」(崎山) 
(※フィクションをドキュメンタリーのように見せかけて演出する映像表現)

「子どもの頃から、扉や路地を見て“これはどこかに繋がっているのかな”とよく空想していた」と語る崎山蒼志さん(撮影/小財美香子)

 摩訶不思議なストーリーが展開する「ふと、新世界と繋がって」。心地よさと鋭さを併せ持った文章のリズムも魅力的だ。

「一つのテーマを突き詰めることができなくて、どんどん話を展開させたくなるので、それが文章のリズムに繋がっているのかもしれないです。これは歌詞もそうなんですけど、速く書いたもののほうが“いいな”って思います。もちろん仕上げはしっかりやらないとダメだけど、“がんばれがんばれ”“いけいけいけ!”みたいな感じのほうがノリが出るし、後から読んでも面白いんですよね」

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