「現象のような音楽をしたい」
崎山本人が特に気に入っているという一篇が、「一房の月」。仲間と飲み明かした駅からの帰り道、空に浮かぶ半月を見て、広大な宇宙や何億年と続く命の連なりに思いを馳せる――という掌編だ。
「『一房の月』は自分の思考の流れがスムーズに書けたと思います。あと、書いているときは創作するときの脳の働き方に近い気がするんです。音楽を作っているときも、星や空、時間の流れを想像することがよくあります」
また「霧に包まれる街を見て」における〈現象のような音楽をしたい〉という一文は、崎山の音楽制作における一つの指針になっているという。
「自分のなかで“現象”という言葉のイメージは音楽、特にライブに近いんです。たとえば夕陽だったり、絶景をみんなで観て、“きれいだね”と言いながら撮影している状況って、音楽を共有している感覚にすごくつながっているなと。風景が見えてくるような曲も好きだし、現象みたいな音楽を作りたいなって思います」
「上京してすぐに連載始めたので、この2年間はこのエッセイと一緒に過ごしていた感じもあります」という崎山。電車の窓から見えた自動車学校、友達と訪れた古着の無人販売所、友人が青春を過ごした江の島への小旅行など、崎山の日常が垣間見えるのも楽しい。
「散歩もするし、“HELLO CYCLING”(電動アシスト自転車のシェアサイクリングのサービス)で動き回ってます(笑)。その街が持っているムードや磁場みたいなものを感じるのが好きなんです。この前、花園神社(新宿)の酉の市に初めて行ったんですけど、すごかったです。ちょっと妖しい雰囲気もあったし、“ふだん、何をされているんだろう?”という方々がたくさんいて。花園神社の近くにあるゴールデン街もやばいですよね」
文筆家としての才能を示した「ふと、新世界と繋がって」。音楽と同じく、崎山が書く物にも大いに期待したい。
「書くということで今後やりたいことは……もし小説を書くのであれば、しっかり構成を作って、いろんな情報を取り入れてやりたいですね。あとは妄想や想像なしのエッセイも面白そうだなと思っています。“今日はこんなプラグイン(デスクトップの音楽制作で使う音源やエフェクト)を買った“みたいな(笑)」