
「僕は生きたい」という思いがみなぎっていた
診断を受けたときの奥山さんの心情は冒頭に書いたが、家族はどのように受け止めたのだろうか。
「夫は、私が家で泣いていたりしていたこともあって、表情を変えることなく、いつも通りの姿でいてくれました。ただ、彼も私と同じようにショックを受けていたはずです」
美良生くんの心臓手術のとき、ある考えが頭を巡ったことを功次郎さんが話してくれたことがあるという。
「もちろん、成功を祈っているけれど、私たちのせいではなくて、もし手術がきっかけでこの子が亡くなったら、ほっとすると心の片隅では思っていたそうなんです。そうすれば、障害とは無縁の生活に戻れるって。でも、手術が無事終わって、美良生が手術室から出てきたときに、『僕は生きたい』って彼の思いがものすごくみなぎっていたんです。その姿を見て夫は、『この子は不幸な子でもかわいそうな子でもない。僕はこの子を生涯大切にする。僕はこの子の父親だ』って、そのとき初めて心から思えたって言っていました。その瞬間に、彼は受け入れることができたんだと思います」
一方の長男・空良くんはこのことを「『かすり傷』程度に感じていたようだった」と奥山さんは言う。
「当時、小学4年生だったのですが、私たちが告知を受けた日に、彼にも伝えました。すると彼は、『おしゃべりできないじゃないか!』と泣いてしまったんです。9年くらいずっと一人っ子で、念願の弟がやってきて楽しみにしていたことが、長男なりにあったんだと思います。でも、翌朝、起きてきたらいつも通りで、『大丈夫なの?』って声をかけると、『昨日はびっくりして泣いちゃったけれど、よく考えたら弟であることに変わりはないからいいやと思った』と言ってくれました。私は長男のその気持ちがわかるまで、3年ぐらいかかったんですけど、いまでは本当に長男の言う通りだなと思いますね」