一人の精神科医による類まれなフィールドワークの記録だ。診察中心の医療体制に物足りなさを感じていた著者は、全国5カ所の「自殺希少地域」を訪ね歩く旅に出る。旅の中で、医師の立場を離れて旅行者として遭遇したエピソードが紹介される。
 徳島県旧海部町を旅行中、歯痛に襲われた著者に、宿主は「82キロ先の歯医者まで送ろう」と声をかける。困ったひとがいれば、解決するまで関わろうとする──それは、地域を超えた共通点だった。「同調」とは違い、住民たちは自身の意見を明瞭に持つ。東京都神津島村のある若者はその様子を指してこういう。「この島のひとたちは、ひとの話をきかない」。自分をどう持ち、他人といかに関わるか──日々の実践がそれ自体、病の「予防」なのだ。医療への発想が転換する一冊。

週刊朝日 2016年8月5日号

暮らしとモノ班 for promotion
【フジロック独占中継も話題】Amazonプライム会員向け動画配信サービス「Prime Video」はどれくらい配信作品が充実している?最新ランキングでチェックしてみよう