無数の滝の水はここでは男性器を象徴する塔と共に、滝そのものが精液のメタファーでもあります。そしてその精液は建物の外部の庭園の中央を流れるタイルの川はナイルの河へと合流します。このナイル河はこの「横尾館」の入り口に展示されている「天ニアルモノヲ見ヨ」というエジプトのクフ王の墓であるピラミッドの絵と対応します。クフ王とはまた福武さんの「フク」とも対応、つまり「クフ王」はここで「フク王」に変身してしまうのです。

 庭園いっぱいに敷かれた砂はエジプトのピラミッドを囲む砂でもあります。川(ナイル河)に沿って配置された赤い岩は、「葬館」を物語る装置として、わが国の三途の川を描写したものです。三途の川という死のイメージに対して、生のイメージを象徴する鶴と亀の像を川の周辺に配置しています。そして、庭園の背後にはベックリンの「死の島」に描かれた糸杉を植樹して物語性を強調し、ナイル河=三途の川を造形しました。

 さらに河底にはタイル模様が描かれていますが、このタイル画は、建物内部に展示されている三点連作の「原始宇宙」の右端の抽象画が絵という虚像の中から、タイルという現実の物質へとメタモルフォーゼしたものです。また川の中に泳ぐ鯉は、僕の考える動く彫刻でもあります。

 パビリオンの解説はザッと以上のようなものでありますが、現物をまだ目にしていらっしゃらない方には、僕のこの解説は抽象的で何が何やらおわかりにならなかったのではないでしょうか。もし、この「豊島横尾館」へ行ってみようと思われた方は、この僕のテキストを持参して、現物と照合しながら見ていただくと、より興味を持たれるのではないでしょうか。

 ああ、もうひとつ言い忘れていました。それはトイレです。用があってもなくてもぜひトイレのドアを開けて内部に入っていただきたいと思います。全面歪んだ鏡張りの空間の中に便器があります。万華鏡化されたトイレなので、驚いて用をたさないまま出てきたという人に何人も会いました。ぜひ勇気を出して用をたしていただきたいと思います。

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