僕が「鯱もなか」を守りたいと思った一番の理由は、その歴史です。100年以上という長きにわたって愛されてきたお菓子は、それだけで大きな価値があります。歴史は作ろうと思って作れるものではない。他者が追従できない、最大の強みですよね。それなのに、その歴史をここで途絶えさせてしまうなんて、本当にもったいないことです。
先代の「自分の代で店をたたむ」という気持ちは変わることなく、2019年を過ぎた頃から、少しずつ廃業の準備が進んでいきました。 新商品の開発は完全にストップ。商品を置いてもらうための新規営業もやめました。製造などを手伝ってくれていたパートさんにも事情を伝え、契約更新をしないことで話をしていました。
結果、働き手は先代夫婦の2人だけに。業績は、2005年のピーク時(愛・地球博の開催年)と比べると半分以下になっていました。いつ店を閉じるのか。
あえて閉店の日を決めず、できるだけ続けようとしていた先代の胸の内には、やはり元祖 鯱もなか本店を途絶えさせることに対して、迷いがあったのでしょう。しかし、70歳になり、年齢的にも体力的にも、いよいよ店を閉じるときが近づいてきたことを本人も僕たち家族も感じていました。
ついに、「鯱もなか」が消えてしまう。そんなとき、世界を震撼させる出来事が起こったのです。
コロナ禍で売上が10分の1 まで激減
2020年、新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延。人々の行動は制限され、飲食店や観光業界が大打撃を受けたことは記憶に新しいでしょう。もちろん、元祖 鯱もなか本店も大きな影響を受けました。
うちの商品は、約7割を駅やサービスエリア、空港、百貨店などの小売店に卸していて、大須の本店で販売をしているのは、ほんの一部です。そのため、コロナ禍で土産需要が一気に激減し、みるみるうちに在庫の山ができてしまったのです。
売上は、コロナ前である2019年の3分の1、最盛期と比較すると10分の1にまで落ち込みました。 小さな規模ながらも、愛情を込めて作ってきた我が子のように大切な商品。それが山のように残っている現実。