「70年生きてきて、こんな居たたまれない気持ちになったのは生まれて初めてだった」

 先代はいまでも顔を歪めてそう語ります。

 もはや、これまでか。誰もが諦めかけたそのとき、それまで沈黙を貫いていた妻の花恵が動いたのです。

「久しぶりに店の裏にある工場に立ち寄ったとき、賞味期限の近づいた商品がうずたかく積み上げられている様子を目の当たりにしました。正直、跡を継ぐつもりはなかったので、店の様子を見に行くこともほぼなかった。でも、このとき偶然目にした光景には衝撃を受けてしまって。父と母が一生懸命作った商品を、なんとか捨てないで済む方法はないか……、誰かに食べてもらえないか……、そう考えました」(花恵・談)
 

全国から届いたお客様の生の声

 売れ残りをすべて廃棄してしまうくらいなら、安くてもいいから一人でも多くの方に食べてもらいたい。そんな妻の想いから、僕たちはある挑戦をすることにしました。

 コロナ禍によって売れ残りを抱えて困っている事業者が特別価格で販売し、消費者が「買って応援、食べて応援」するというコロナ支援サービス『WakeAi(ワケアイ)』に出品してみることにしたのです。

 もしかしたら、「鯱もなか」を買ってくれる人が少しでもいるかもしれない。販売ページには、コロナ禍で行き場のない在庫が山積みになっていること、そして、店の経営がとても苦しいことを記載しました。義父母の想いが伝わるように。

 すると、なんと200件近い注文が入ったのです。

 また、『WakeAi』は、購入者がコメントを入れられるシステムだったので、ありがたいことに「鯱もなか」を食べた人からの感想がコメント欄に続々と届き始めました。味に関する感想が多かったのですが、同じくらい寄せられたのが、「鯱もなかの歴史を守ってください」「これからも鯱もなかを作り続けてください」という温かなエールでした。

暮らしとモノ班 for promotion
【Amazonブラックフライデー2024】セール開催中(12月6日(金)23:59まで)。目玉商品50選、ポイントアップやお得な買い方もご紹介!
次のページ
もう家族だけの問題ではない