今年3月にグランシアターで鑑賞した際の様子

炎上の中でも抱いていた「希望」

 鑑賞した映画の評論を毎週のようにアップするなど発信を続けるうち、半年ほどたつと炎上ムードが落ち着きはじめた。中には、「本当に映画が好きな方なんだと分かりました」と“アンチ”から“ファン”に転向する人まで出てきた。

 そして10月9日。「今年1番うれしかったこと」が起きた。

 仕事終わり、鑑賞6回目となる「ラストマイル」を見ようとシアタス調布に行き、車椅子席のチケットを買った中嶋さんは、劇場の扉を開けて息をのんだ。かつて悲しい思いをしたグランシアターが大幅に改装され、スロープと車椅子席が設置されていたのだ。その時の感動を、中嶋さんはこう振り返る。

「工事にはそれ相応の費用と時間がかかるはずなのに、いつの間に……!と驚きました。以前話し合いをしたイオンシネマの方からは何も聞いていなかったので、ドラマチックな展開に、映画が始まる前から泣いてしまいました。周りのお客さんは何事かと思っていたでしょうね(笑)」

10月9日に再びグランシアターを訪れると、車椅子席とスロープができていた

 中嶋さんは翌日、SNSで「あの時流した悔し涙があるから今があって、、、嬉し涙が止まらない」などと喜びの報告をした。

「炎上は本当につらかったけど、おかげで映画館のバリアフリー問題について世間の人に考えてもらうきっかけを作ることができた。映画館が変わる未来への第一歩かもしれないという希望があったから、非難されても気持ちがぶれなかったのかなと思います」

 中嶋さんがバリアフリー社会を訴える背景には、18歳から26歳まで過ごした米国での経験がある。日本の多くの映画館では車椅子席が最前列に設置されているため、スクリーンが見づらく首も痛くなりやすいが、米国では劇場内のさまざまな位置に設置されていて好きな席を選べた。また車椅子ユーザーを介助することへのハードルも低く、バスに乗った時は、運転手だけでなく乗客までもが慣れた手つきでスロープを置いたり車椅子席を用意したりしてくれた。

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