どうやら自民党と公明党は憲法問題を参院選の争点から隠すらしい。だが選挙後に改憲工作を始めるのは見え見えだ。集団的自衛権や戦争法(安保法)がそうだったように。だから、彼らがなにをやろうとしているのか、よく考えなければならない。
『「憲法改正」の真実』は改憲問題を考える最良のテキストだ。護憲派の泰斗・樋口陽一と改憲派の重鎮・小林節による対談である。自民党の憲法草案について、条文のひとつひとつを読み解きながら、憲法としてどこが問題なのかを指摘している。
 自民党の草案というのは、さらりと読んだだけだと、いまひとつピンとこない。なんか古めかしいなという違和感があるだけ。だが二人の憲法学者による対談によって、見すごしてしまいそうなところに大問題が隠されているのがあばかれる。
 いちばん深刻なのは、国民と国家、憲法と国家、国民と憲法の関係が、現在の日本国憲法とは逆転してしまうことだろう。憲法は国家が暴走しないよう、歯止めをかけるためにある。国民が憲法を通じて国家を縛っている。ところが自民党草案では、憲法もほかの法律と同じく、国家が国民を縛ろうとする。草案の行間からにじむのは、日本国憲法に対する憎悪と、「国家あっての国民でしょ」という強烈なオカミ意識だ。たんなる戦前回帰ではない。
 自民党はいきなり9条からでなく、緊急事態条項から改憲に手をつけてくるだろう。テロや大地震に対応するためなんて口実で。だがその気にさえなれば現行法でも対応できるのは、本の地震でも実証済みだ。自民党や公明党やお維新には騙されないぞ。

週刊朝日 2016年7月8日号