過敏に考えすぎていた
体調管理ひとつとっても、自分だけの問題にとどまらない。トップになってからは、観劇に来てくださるファンはもちろん、作家、出演者、表には見えないスタッフの方まで、どれだけ多くの人が公演に携わってくれているのかということが痛いほどわかるようになった。
「とくに公演中は、毎日の自分のコンディションに過敏になりすぎるくらい過敏になっていました。その時1回しか観に来られない方もいるから、なるべく波がないようにせねばと思っていたんですよね」
そこで自らに課したのが、ほんの少しも体調の乱れは許さないというルール。予兆があれば、すぐに手当てをした。
「いい状態で舞台に立ちたいという一心でしたが、今考えると、人の体調なんて毎日変わって当たり前。よくない日があるのも仕方ないよね、と思える余裕が生まれてきました。そこまで神経質になりすぎなくてもいいことを、シビアに考えすぎるところがあったんです」
もともと気分に波はないほう。とはいえ、「何かと心配を募らせやすい性格」ではあるらしい。例えば台風が近づいて、大雨が降っているとき。彼女が真っ先に考えたのは、お客様が無事に公演に来てくださるかどうか。
「大雨の予報を見ただけで、『どうしよう……』と、不安になってしまうことが多かったんですよね。退団後、そんな心配は減りましたが、実は今も大雨の予報があると、今日公演中の組は大丈夫かしらと、遠くから心配しているんですよ」
そんな月城さんにとって、宝塚とは?
「まずお客様目線でいえば、宝塚のいいところって、やっぱり成長を楽しんでもらえるところだと思うんですね。一方、私にとっても、成長していく過程を見守ってもらえるすばらしい環境。若くして入って最初は未熟だったとしても、いろいろなことを経験して、少しずつ大人になっていく。そんな過程のすべてを応援してもらえるんです」
宝塚の卒業は、実はトップに就任したときから考えていたこと。どうやったらお客様が一番喜んでくれるか、バトンを渡すベストのタイミングをずっと探していた。「もう月組は大丈夫」。そう思えた今年、プロデューサーらと話し合い、退団を決めた。(ライター・福光恵)
(【インタビュー後編】「月城かなと「人を変えようとしないこと」を心に留めて 最近は飼っている猫にたじたじ?」に続く)
※AERA 2024年11月18日号より抜粋