下山時刻に登り始めようとする人も
山登りは、朝早くに出発して、十分に日が高い時間に下山することが原則だ。ところが、高尾山の場合、通常は下山時刻である午後2~3時ごろから登ろうとする人もいて、「ヒヤッとします」(加藤さん)。
山では、午前中は晴れていても、午後から天気が崩れることが多い。気温も下がる。秋が深まれば日も短くなり、午後3時を過ぎると薄暗く感じる。遭難のリスクも高まる。
「好天の日帰り登山であっても雨がっぱやヘッドライト(もしくは懐中電灯)を持って登ってほしい」と、山岳救助隊は言う。
舗装された1号路でも街灯はない。日が暮れれば足元が見えない闇となる。
「あんなに真っ暗になるとは思わなかった」。加藤さんは夜間に下山した客から、そう言われたことが何度もあるという。
後ろ向きに下るそのワケは
日中、1号路を歩いていると、何の危険も感じない。登山者も多い。そして、ここが遭難も一番多いルートだという。いったい、どこに危険が潜んでいるのか。
「1号路は足元がしっかりしているので、簡単に登れるとみなさん思うようですが、ケーブルカーを使わなければ、往復約9キロと距離が長い。そのうえきつい坂があって、想像以上に体力や筋力を消耗します」(加藤さん)
八王子消防署によると、1号路での遭難の多くは下山中に起きている。
午後、1号路を通りかかると、「後ろ向きに下っている人と出会う」と加藤さんは言う。足の筋肉に疲労がたまり、体重を支え切れなくなると、膝ががくがくするように震える、「膝が笑う」状態になる。膝への負担を和らげようと、急な坂道を後ろ向きに歩くのだが、当然、転倒の危険性が高まる。コンクリートの路面に頭部などを打ち付ければ、重大な事故につながりかねない。
加藤さんは言う。
「きちんと準備をすれば、高尾山は危ない山ではありません」
幼稚園児が遠足で登る山でもある。こうした「誰でも登れる山」というイメージが、準備不足や体力不足を軽視させ、遭難を招いているのかもしれない。
記者も初めて高尾山に登ったが、山岳信仰と豊かな自然が感じられるとてもいい山だと感じた。これからがベストシーズン。気をつけて山を楽しんでほしい。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)