『オパス・デ・ファンク』ジュニア・マンス・アンド・フランク・ウェス
『オパス・デ・ファンク』ジュニア・マンス・アンド・フランク・ウェス
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 バブル崩壊は1991年10月に始まったとされるが、筆者が属していたIT業界では1年早く始まった。稼ぎ頭だった金融機関のシステム開発案件が次々に凍結され、営業の筆者などは1週間で白髪が激増するほどの憂き目を見る。一般には1991年になっても崩壊が始まったという認識はなく、多くが実感するのは早くて92年だったように思う。というわけで、1991年も空前の来日ラッシュとなった前年に次ぐ255組が訪れた。67組のフュージョン/ワールド/ニュー・エイジが首位をキープし、60組の主流派、41組のヴォーカル、38組の新主流派/新伝承派/コンテンポラリー、29組のフリー、10組のビッグバンド(スイングが5組にモダンが5組)、6組のトラッド/スイング、4組のR&B系が続く。順位に変動はあるものの大した意味はなく、片っ端から折衝した結果にすぎまい。各地のサマー・ジャズ・フェスティヴァルも例年通り大いに賑わった。

 参加作の数ばかりは前年と同様にバブリーとはいかず、3作増しの33作にとどまる。スタジオ録音(ホール録音を含む)は17作あり、日本人との共演は14作、うち6作が和ジャズだ。ライヴ録音は16作あり、日本人との共演は5作、うち2作が和ジャズだ。候補作は14作になる。取り上げるのはジュニア・マンス・アンド・フランク・ウェスの『オパス・デ・ファンク』、ペーター・ブロッツマンの『デア・デヴィル』だ。選外作と評価や欠格要件は【1990年 選外リスト】をご覧ください。後ろ髪を引かれるものはなかったが、海外録音と併せたデイヴ・リーブマン=リッチー・バイラーク盤、ハンス・ライヒェル盤は優れたライヴ集だ。一聴をお薦めしたい。では、マンス=ウェス盤から。

 推薦盤は六本木にあったジャズ・クラブ「グッデイ・クラブ」で収録された。同所では1989年から月に一度、アメリカの一流ピアニストや歌手を招いたディナー・ショウを開催して評判を呼んだ。その模様を収めたライヴ作も推薦盤を含め7作が残されている。推薦盤のアーティスト名の表記順からはマンスが主役でウェスはゲストに映るが、実体はフランク・ウェス・カルテットだ。ウェスが主導権を握っていて自ら進行も務めている。ウェスに専属契約の縛りがあってそうしたのか、または同所に1989年7月に出演してライヴ作も残し、人気で勝るマンスを優先しただけかもしれない。ともに本連載再登場、マンスは第51回、ウェスは第61回で取り上げた。そちらも一読いただければと思う。

 ウェスのオリジナル・ブルース《ザ・サーチ》で幕開け。ウェスはフルートをかまえ、速めのミディアム・テンポに乗ってグルーヴ&スイングしまくる。マンスの節度を弁えたファンキー・タッチも心憎いばかりだ。快ライヴを確信させるご機嫌な幕開けとなった。

 ここから6曲はお馴染みのスタンダードが続く。テナーに替えての《ロング・アゴー・アンド・ファー・アウェイ》はなんとファスト・テンポで。これまたノリノリの快演だ。ポール・クイニシェットのタフ版というべきか、レスター流をベースにブリブリいわす。

 これもテナーによる《イージー・リヴィング》はオーソドックスにスロウ・バラードで。腰をおとし男の純情を切々と綴って共感を呼ぶ。マンスの愛らしいタッチも光る佳演だ。

 フルートに替えての《アローン・トゥゲザー》は珍しいことにボサノヴァのリズムで。夕闇にそよぐ南風の趣き、甘く切ない情感をリリカルにリズミカルに表出して心地よい。

 テナーによる《フー・キャン・アイ・ターン・トゥ》も予想外のファスト・テンポで。ウェスはソロに転じるとギアを上げて豪放磊落に歌うこと歌うこと。マンスはもとより、マーティン・リヴェラ(ベース)、アルヴィン・クイーン(ドラムス)のソロも聴き物。

 フルートによる《マイ・ファニー・ヴァレンタイン》はもちろんスロウ・バラードで。リリカルなプレイに終わることなく果敢なアプローチも見せ、その美しいトーンとともにモダン・フルートの名手を実感させる。この夜のフルート演奏とバラード演奏の白眉だ。

 テナーに持ち替える《アイ・ウォント・トゥ・ビー・ハッピー》はファスト・テンポで。ウェスは猛然と吹き抜け痛快このうえない。負けじとクイーンもホットなソロで応じる。

 タイトル曲のホレス・シルヴァー作《オパス・デ・ファンク》は『オパス・デ・ジャズ』(Savoy/1955)をウェスの出世作に導き、フルートの名手のほどを知らしめた人気曲だ。オリジナル演奏よりも遅いミディアム・テンポでサラリと流す、素敵な新装版になった。

 ラストのパーカー作《ビリーズ・バウンス》はテナーに持ち替えファスト・テンポで。これもノリノリだが、バピッシュではなくホンカーの素地すら露わにする豪快な熱演だ。マンス、リヴェラ、クイーンも壺を得たソロで華を添え、ご機嫌なショウの幕が下りる。

 粒の揃った快ライヴ作だ。これほど気合いが入り(ファスト)、これほど心のこもった(バラード)ウェスを知らない。加えて、モダン派のフルートに中間派のテナーに、その力量が遺憾なく発揮されている。こう言ってはなんだが思わぬ拾い物、フォー・ビート・ジャズの愛好者ならきっと相好を崩すにちがいない。もちろん廃盤だが、本稿執筆時点でリンク先では在庫あり。日本制作盤は買い逃すと血眼で探す羽目になる。お急ぎあれ! [次回7/11(月)更新予定]

【1991年 選外リスト】fine>good>so-so>poor
Mosaic Select/David Liebman & Richie Beirach (US-Mosaic/unknown) fine, *1
Stop Complaining, Sundown - Hans Reichel Duets with Fred Frith and Kazuhisa Uchihashi (Ge-FMP/January 25) fine, *2
Standards Request Live at the Keystone Korner Tokyo/Kenny Drew Trio (Alfa Jazz/January 30,31) good
Autumn Leaves - Kenny Drew Trio Plays Standards Live (Alfa Jazz/January 29, February 1,2) good+
Georgia on My Mind/Ray Brown Trio (Lob/ February 7) good~, *3
Black Orpheus/Ray Brown Trio (Paddle Wheel/February 7) good, *4
Bill Frisell and Joe Lovano with Paul Motian in Tokyo (Ge-JMT/March 28,29) fine-
Live in Japan/The Go Jazz All Stars (Ge-Go Jazz/April 20) good~
Soul Eyes/Art Farmer (Ge-enja/May) good~
Late at Night/Ernestin Anderson (Paddle Wheel/July 20) so-so
Images/Gonzalo Rubalcaba (somethin'else/August 24,25) fine-
Rituals - Live in Japan/Painkiller (Toy's Factory/September 26) good+

*1: 3CDs: 3 titles on the date, 9 titles in US, 3 titles in Germany.
*2: 1 title on the date, 1 title in Germany.
*3: 4 titles on the date, 5 titles on May 23, 1990.
*4: 2 titles on the date, 7 titles on May 23, 1990.

【収録曲】
Opus de Funk/Junior Mance & Frank Wess

1. The Search* 2. Long Ago and Far Away 3. Easy Living 4. Alone Together* 5. Who Can I Turn to 6. My Funny Valentine* 7. I Want to Be Happy 8. Opus de Funk* 9. Billie's Bounce

Frank Wess (ts, fl*), Junior Mance (p), Martin Rivera (b), Alvin Queen (ds).

Recorded at Good Day Club, Roppongi, Tokyo, on April 27, 1991.

【リリース情報】
1992 CD Opus de Funk/Junior Mance & Frank Wess (Lob)
1993 CD Opus de Funk/Junior Mance & Frank Wess (TDK)
2002 CD Opus de Funk/Junior Mance & Frank Wess (All Art)

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。

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