春風亭一之輔・落語家
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 落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「詐欺」。

「詐欺」とは、「他人をだまして金や品物を奪ったり、損害を与えたりすること」らしい。

 子どものころのはなし。

 友だちの家に遊びに行くとおやつにカール(スナック菓子の)が出てきた。小皿に同じ数だけ、1人に1皿。喧嘩にならないようにとお母さんなりの気配りだろう。友だちはパクパクとすぐにカールを食べてしまった。友だちが「おかあさーん! カールまだあるーっ!?」と叫ぶ。「もうないのよーー!」と台所から声がした。

単純かつ物騒なゲーム

 カールはゆっくり食べるのが、私のそのときのブームだった。私は湿気ったカールが好きだ。いや、好きというよりカールは湿気っていても美味い。今でいうところの味変(あじへん)というやつか。当然のことだが袋から出てきたばかりのカールは湿気ってはおらずサクサク。自然に湿気ってふにゃふにゃ食感の若干の弾力があるカールが好きなのだが……その日はむしろグニャグニャにして食べてみようかと、一つ口にふくんでは唾液で湿らせて離乳食のようにして食べていた。だから食べるペースが遅い。

 そのうちに友だちは1人でファミコンを始めた。ソフトは任天堂の「バルーンファイト」。風船で空中を飛び回り、敵の風船をキックで割って湖に叩き落とすだけの単純かつ物騒なゲームだ。

 私は友だちが器用にクリアしていくのを、口の中でカールをグチャグチャにしながら眺めていた。ボンヤリしながらブラウン管のテレビを見つめて口と手を動かしていると、私の皿のカールが最後の一つになった。

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カールが……