そういうつもりならそれでいい。でもお母さんは2人で食べろという意味でそれを渡してくれたのだろう。それをファミコンに気を取られている私の隙を盗んで食べ尽くすとはどういうことだ。

「もう帰る」

苦手になった

 私はそのまま友だちの家をあとにした。帰ってからすぐに「ぽたぽた焼を買ってほしい」と母にねだった。よほどの懇願だったのか母は夕方になるとスーパーへ行った。そして「これしかなかったけど……」と言って「雪の宿」を渡してくれた。ソフト煎に白い砂糖蜜がマダラ状に付いている甘い煎餅。ぽたぽた焼とは明らかに違うもの。名前からしてまるで違う。もちろん味も見た目も完全に違う。なぜなんだ、お母さん。なぜ「雪の宿」が「ぽたぽた焼」の代わりになると思ったんだ。

 それまで大好きだった「雪の宿」が苦手になったのはこの出来事がきっかけだ。思えば「雪の宿」も表面のカリカリの砂糖蜜を舐め切ってから食べていた。

 そろそろ今回の原稿に取りかかろうと思いつつ、某市での演芸会の楽屋のケータリングを見ると「おばあちゃんのぽたぽた焼」と「雪の宿」が並んで置いてあった。それを眺めながらこの原稿を書いている。

 なにが元でネタが降ってくるかわからないものだ。ケータリングではやっぱり私は、ぽたぽた焼にしか手が伸びなかった。

 楽屋でこっそりぽたぽた焼の表面を舐めてみたら、甘じょっぺえはずなのにほろ苦い味がした。

 おばあちゃんのぽたぽた焼のはずなのに……こんなの「詐欺」だよ。

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