菅野完『日本会議の研究』。当の日本会議が版元の扶桑社に出版の差し止めを要求したとの報道もあり、発売直後に即、売り切れ。もっか話題沸騰の一冊だ。
 首相本人も含め第3次安倍晋三政権の閣僚16人が所属する「日本会議」。いったいそれはどんな団体で、どんな主張をし、どれほどの影響力を持つのか。徐々に浮かび上がるのは、私たちの想像をはるかに超えた組織の力だ。
 日本会議のルーツでもあり、事務局というべきは右翼団体「日本青年協議会」。それは70年代安保の頃、左翼学生運動に対抗する民族派学生運動として出発し、新宗教「生長の家」の周辺に集う若者たちが牽引し、ついに今日、政治を陰で操るところまで来た。
 それって陰謀論じゃないの?という疑念は、じきに吹き飛ぶ。70年代後半に地道な活動を通して元号法制化を成功させた彼らはその後も同様の活動を続け、1995年の「村山談話」が発表される過程で横やりを入れ、2000年代には「保守革命」として「歴史認識」「夫婦別姓反対」「従軍慰安婦」「反ジェンダーフリー」をターゲットに定めた。
 当時、保守論壇誌にわりとよく目を通していた私には、思い当たる節がありまくり。当時だけではない。安保法制の審議中、菅官房長官が名前を出した集団的自衛権を合憲とする3名の憲法学者も日本会議の息のかかった団体の役員。「沖縄の二つの新聞社はつぶさなあかん」という発言が出た自民党「文化芸術懇話会」のメンバーも日本会議に近い人物だ。
 安倍政権への支援や協力という「上への工作」も、地方議会への請願や言論界での活動など市民社会への浸透を狙う「下への工作」も熱心に続けてきた人々。安倍政権の反動ぶりも、路上のヘイトの嵐も「社会全体の右傾化」ゆえではないと著者はいう。〈実は、ごくごく一握りの一部の人々が長年にわたって続けてきた『市民運動』の結実なのではないか〉と。
〈彼らは、いまだに学生運動を続けている〉の一言に震撼する。安倍政権に疑問を持つ人は必読。

週刊朝日 2016年6月17日号