小学3年生からずっと通う横浜市の理髪店。髪形に関する注文は一切なし。会社員時代は悩みを聞いてもらったことも。店にはリトが初期に描いたボールペン画やオリジナルTシャツが飾られている(写真/小黒冴夏)

奪い合ったりするよりも 助け合う関係性の作品を

 ロボットが植物に水をあげる絵やマニアックな動物の絵を投稿したが反応は鈍い。ところが5月に絵本『スイミー』の世界を描くと、初めて1千の“いいね”がきた。さらに作品につけていた解説をやめ、ひと目でわかる題材に変えようと考え始めた矢先に生まれたのが、巨大ジンベエザメを描いた「葉っぱのアクアリウム」。8月に投稿した。

「直後からスマホの通知音が鳴りやまなくて、最終的に3万もの“いいね”がつきました。これ以上駄目なら葉っぱはやめようかと思っていた時だったので、運命の作品になりました」

 さらに1カ月もたたないうちに絵本『エルマーのぼうけん』をモチーフにした作品で過去最高の13万“いいね”を獲得。2回バズらせたことで「確信を得た」という。こういうものを作っていけば、やっていけそうだというイメージができたのだ。その前後からメディアの取材が活発になり、フォロワーが増えていった。

 フォロワーの反応を分析すること以外にリトは、SNSでバズるために徹底研究をした。バズる人の投稿を徹底検証し、例えば家の中で作品を撮るより葉っぱは外で空をバックにした方が映えること、インスタグラムでは画角を統一させた方がきれいに見えるといった学びを得た。こうした対策を日々やりながら何かに似ていると思った。

「対戦ゲームの攻略法です。ゲームも切り絵も限定された世界でどう問題をクリアするかを考える。攻略法をロジックで考えるのは好きなので、ゲームをしてきたのは無駄じゃなかったなって」

人から「こんな作品を作ってみませんか?」と勧められると作る意欲が失せるという。自分の中から湧き出す「作りたい」という思いが不可欠なのだ(写真/小黒冴夏)

 とはいえ、肝心なのはどんな新作を作るか。これはいくら経験を重ねても簡単にはいかない。ただ、彼にはたくましい「想像力」があった。幼い頃からアニメやゲームなどが終わると、その続きを考えるのが好きだった。サラリーマン時代は、注意を受けているシリアスな場面なのに、上司の服の色やボタンをみて、そこから違うことを連想してしまう癖があった。

「僕の頭の中にはショート動画が脈絡なくずっと流れているような状態で、無の時間がないというか。これもADHDの特性の一つなんですが、それも作品づくりにつながっていると思います」

(文中敬称略)(文・西所正道)

※記事の続きはAERA 2024年11月4日号でご覧いただけます

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