話は変わるが、ドラマ「地面師たち」を観た。実際にあった地面師詐欺がベースになった物語だが、実際には起きなかった殺人が強烈な暴力シーンと共に描かれていた。多くの人から「すっごく面白かった!」と勧められて観たのだが、全話観た後に、ひたすら具合が悪くなってしまった。詐欺を肯定するつもりはないが、富を持たざる者たちが頭脳一つで鮮やかに(自分たちより圧倒的に強い)巨大企業をだますという日本版「オーシャンズ8」になり得ただろう物語が、セックス&バイオレンス&残酷な殺しの表現が強調されたことで、悪のてんこもりみたいなドラマになってしまった。
あまりに後味が悪かったので、「地面師たち」と真逆の価値観の日本語の作品を観てこの気分を薄めたい……と、何の気なしに選んだのが「釣りバカ日誌」だった(初めて観た)。そして、素直に感動した。日本のセックスシーンは全て「合体」で表現すればいいじゃん! とまで思った。物語に不必要な暴力的なセックスシーンなど気持ち悪いだけだし、人が残酷に殺されるシーンを「かっこよく」見せる表現物にも疲れた。
現実がとんでもない暴力に溢れているなかで、映像で見せるセックス&バイオレンス&殺人を、ただの悪質なファンタジーのように感じはじめている自分がいる。今の世の中に足りないのは、ハマちゃんだ! 超金持ちのお年寄りと楽しく釣りに行って馬鹿話ができる、優しい空気だ! そんな気持ちで「釣りバカ日誌」を一気に見ていたとき、西田敏行さんの訃報を知った。なんだかとんでもなく、大切な“価値観”を失ったような気持ちになる。