また、突然チャイムを鳴らしては、「近くで作業している大工だが、おたくの屋根、問題あるよ」などと親切そうに語り、「結構です」と断ると、「放置しておくと大変なことになる、ちょっと見るよ」と家にあがってこようとする男たちがいるという(これは本当に多い!)。
実際、両親の暮らす地域では、ここ数年で高齢者の留守宅を狙った窃盗事件が後を絶たず、貴金属や現金を盗まれた経験のあるご近所さんは、一人や二人じゃない。
私はこれまで「両親が詐欺にあう」「留守中に泥棒に入られる」ことを心配していた。電話には注意してね、知らない人の訪問には注意してね、戸締まりは十分にしてね、留守にするときも電気をつけたままでねなどと話してはいたが、そんな心配をしていたことが、“昔は良かった”と感じてしまうくらいに、今、私は不安だ。
両親が見知らぬ男たちに殴られるのではないか、殺されるのではないか、戸締まりをいくらちゃんとしていても、暴走した人たちを止めるのは難しいのではないか。そんな不安を感じる社会になるなんて、少し前まで思いもしなかった。
でも考えてみれば……。幼児を殴り殺す大人が後を絶たない現実を、私たちは既に生きている。そんな社会では、金のために力のない高齢者を殴り殺すような事件が起きるのも、時間の問題だったのかもしれない。「それをやっちゃあおしまいよ」の境界線は悪いほうに更新され続け、今はもうそんな境界線自体がなくなってしまったのかもしれない。