『下流老人』で読者をふるえあがらせた(?)藤田孝典氏の新刊は若者世代に焦点を当てた本だった。題して『貧困世代』。「社会の監獄に閉じ込められた若者たち」という副題がコワイ。
 いまや社会的弱者である若者世代だが、意外だったのは〈若者たちに対する社会一般的な眼差しが、高度経済成長期のまま、まるで変わっていないのではないだろうか?〉という指摘である。
「若者論」の誤りとして著者は五つの神話をあげる。
 (1)働けば収入を得られるという神話(労働万能説)。労働万能説の信奉者は働かない若者を怠け者よばわりし「仕事は選ばなければ何でもある」という。しかし、ではブラック企業で働けと? 労働市場の劣化こそが労働意欲を失わせているのにわかってない。
 (2)家族が助けてくれているという神話(家族扶養説)。いまの若者たちはもう家族には頼れない。家族の人数が減っている上、雇用の不安定化が進み、家族も困窮している場合が多いからだ。
 (3)元気で健康であるという神話(青年健康説)。若者たちの健康は急速に蝕まれている。精神科や神経科に通う者が年々増加し、若者(15~34歳)の自殺死亡率も主要先進国中、群を抜いて高い。
 (4)昔はもっと大変だったという時代錯誤的神話(時代比較説)。
 (5)若いうちは努力をするべきで、それは一時的な苦労だという神話(努力至上主義説)。
 (4)(5)はまさに高度経済成長期の神話ですよね。今日は貧乏でも頑張れば明日は上に行けるという確信があればこそ、(4)(5)のような発想になるわけで、だけどいまは全然そんな時代じゃないのよね。
 若者世代の支援策の前に、オヤジ世代の認識を改めないと、何も先に進まない、この現実!
 このままでは〈貧困世代約3600万人がいずれ日本の人口の大きなボリュームゾーンとなり、「一億総貧困社会」となるのは明らかである〉と著者はいう。〈早急に手を打たなければ、日本は滅びると言っても言い過ぎではない〉。これ、脅しじゃないんで。

週刊朝日 2016年6月10日号

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