たとえば、各分野の専門家に困りごとについて尋ねると、必要な答えが即、戻ってくる。
さらに、仕事を任せてくれる、信頼してくれる、小さな成功を見ていて褒めてくれるといった点も、自分が「大事にされている」「育ててもらっている」という実感につながっている。
「上下関係が緩い」ことは、組織のフラットさと同時に、空気を読んだり忖度したりすることなく、いいたいことがいえる関係を指すといえよう。飲み会の席で、上司の隣に座って話を聞いてもらえたり、意見したことに本気で返事をしたりしてもらえる。そうした体験から、部下であっても、年下であってもリスペクトされていると実感できる。それは、個の尊重といえる。
「仕事が生きがい」と感じられる条件
近年、社員の生産性やパフォーマンスの向上だけでなく、社員満足度や定着率の向上、クリエイティビティを発揮させるための基準として、社員エンゲージメントが重視されるようになっている。社員エンゲージメントは、わかりやすくいうと、社員が職場でモチベーションを高く保ち、やりがいを持って楽しく働く「働きがい」を意味する。そのなかで、楊の次の言葉が印象的だった。
「入社する前は、仕事はお金を稼ぐ手段として、好きではなくてもある程度妥協してするべきものだと考えていたんです。でも、認識が変わりました。いまは、仕事は生きがいになるものだなと思っています」
社員エンゲージメントが高いのである。
仕事を生きがいと感じられるのは、幸せだ。そして、そのように感じさせられる企業は多くない。
楊は、なぜ仕事に生きがいを感じているのか。やはり、自分が望んだ仕事ができているという充実感が大きいだろう。ソニーを志望した理由からして、楊は、センサーとAIを組み合わせてさまざまなことを実現できるようにしたいと考えていた。実際、それを実現できる場にいる。夢見た舞台に立っているのだ。
アカデミックの分野では、さまざまな種類のAIの研究開発が進んでいる。各分野で世界が競っているのが現状だ。
しかし、アカデミックの分野で行われている最先端の研究を、一般人が実際に使う形にまで落とし込めないところに、AI普及に向けた最大の問題がある。
最先端のAIを生活に有効利用できるよう、実用化に向けた橋を渡すのが、楊らの役割だ。