私は村上さんとほぼ同世代。「世界を下から見る」ところが共通していると感じます。私は地べたに張り付いてゴリラの足音を探し、糞(ふん)を洗い、森をさまよいながら、人間も含めた生物界の肌感覚を「下から」味わってきました。
原点はやはり学生運動です。翻弄(ほんろう)されて、人間の本質というものを根本から解き明かしてみたいという気持ちになった。言葉の闇の中にいったん身を沈める村上さんと似ていると思います。
お会いする機会もあります。とても気やすく話ができる、普通のおじさんです。ただ、何でも吸収してしまいそうな底知れない感じもする。たとえるなら呪術師のような。日常的に人前に出す顔とは別にもう一つの、いやもう三つか四つかの村上さんを本人は持っていて、そっちのほうで小説のことを考えているような、そんな気もします。
(構成/編集部・小長光哲郎)
※AERA 2023年4月17日号