注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2024年10月21日号より。
【貴重写真】和服じゃない!スマホ片手にデニム姿の藤井聡太さん
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絶対王者・藤井聡太竜王(七冠、22)が4連覇を達成するのか。それともタイトル初挑戦の佐々木勇気八段(30)が初戴冠を成し遂げるのか。第37期竜王戦七番勝負第1局は10月5・6日、東京都渋谷区でおこなわれ、117手で藤井が勝利。防衛に向け幸先のよいスタートを切った。
「ずっと、急所がつかめないまま指していたという感じで。非常に難解な一局だったのかなというふうに感じています」(藤井)
勝者の藤井はいつものように、客観的かつ謙虚に、一局を振り返った。
戦型は現代最前線の角換わり腰掛け銀。後手番の佐々木が新手を見せ、難しい中盤戦に入った。2日制のタイトル戦では1日目の終わりに、手番の側が「封じ手」をおこなう。佐々木にとってはもちろん初体験だ。62手目、佐々木の封じ手は常識的な銀を逃げる手だった。問題はその次。佐々木は藤井が桂を跳ねる手を本線に読んでいた。しかし藤井が指したのは、左端の歩を突く反撃だった。
「一晩考えたんですけど、全く考えてない手を指されて焦りましたね」(佐々木)
天真爛漫な天才・佐々木は局後、大盤解説会場の観客を前にして正直に、意表を突かれた旨を語っていた。
藤井の指し回しはいつものように精密をきわめた。しかし佐々木も崩れることなく持ちこたえ、勝敗不明の終盤を迎える。佐々木がハッとするような勝負手を放つと、藤井もまた気づきにくい好手で応える。最後は藤井がきわどい一手勝ちを読み切って、佐々木玉をきれいに詰ませた。
「言葉は正しいかわかんないですけど」
佐々木はそう前置きし、初陣の一局をこう語った。
「楽しかったので(笑)。次もがんばりたいと思います」
第2局は10月19・20日におこなわれる。(ライター・松本博文)
※AERA 2024年10月21日号