いるかホステル/富山市にある「いるかホステル」の「春樹部屋」。村上作品の翻訳本を寄贈すると1冊につき1泊無料というシステムだ(いるかホステル提供)
いるかホステル/富山市にある「いるかホステル」の「春樹部屋」。村上作品の翻訳本を寄贈すると1冊につき1泊無料というシステムだ(いるかホステル提供)
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 日本全国に村上春樹さんのファンが集う「聖地」がある。消える聖地もあれば、新たな聖地誕生の予感をさせる場所もある。ハルキストにとっての聖地巡礼の魅力とは。AERA 2023年4月17日号の記事を紹介する。

【写真】『風の歌を聴け』に登場する「猿のオリのある公園」のモデルとされる打出公園

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 聖地は、村上春樹さんが生まれ育った関西にもある。その一つがデビュー作『風の歌を聴け』に登場する「猿のオリのある公園」のモデルとされる、兵庫県芦屋市の「打出公園」だ。芦屋市・西宮市の歴史と村上春樹作品を研究している西宮芦屋研究所の小西巧治副所長はこう話す。

「ファンにとっては、作家にとって大事なデビュー作に出てくるということがまず大きいでしょう。村上さん本人も、中学校から住んだのがこの打出公園の南側。そして当時は芦屋市立図書館が公園の真北にありました。村上作品では『壁』『井戸・深い穴』とともに『書庫・図書館』がキーワードになって物語が展開することが多いですが、おそらく本が好きだった村上少年は自宅から打出公園を通って図書館に行っていたのではないか。そんな想像も、ファンをひきつけるのでしょう」

 芦屋市は公園のリニューアルを計画し、今年には公園を閉鎖、オリを撤去することを決めている。ファンのためにオリのフェンスの一部を再利用し、モニュメントとして残すというが、聖地は消える。

「最初に聞いたときは驚きました。ハルキストと言われる人たちがたくさん訪れ、芦屋市にとって一つの文化遺産になりかけていたわけですから」

 と小西さんは言う。ただ、今はこう思う。

「亡くなった映画監督の大森一樹さんが、オリの撤去について『何を残すかではなく、文学をどう残すかが大事だ』と話していました。公園は老朽化もあり、未来永劫(えいごう)あのまま残すのも無理があるかもしれない。『風の歌を聴け』という小説がなくなるわけではないですから。モニュメントとしてそれなりに残るのであれば、やむを得ない」

 姿を消す聖地もあれば、聖地の誕生を予感させる場所もある。18年にオープンした富山市のゲストハウス「いるかホステル」だ。ファンなら『羊をめぐる冒険』に出てくる「いるかホテル」を連想するだろう。オーナーの荒木まどかさんは「私の宿は春樹さんがテーマの宿にしよう」と決めていたほどの村上ファン。26人用のドミトリーなどのほかに、21年には新たに村上本を集めた「春樹部屋」を作った。

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