「昭和ジャズ大全~幻の名盤・秘蔵盤~」 ※美空ひばり、中村八大、秋吉敏子、ジョージ川口らの演唱を収録
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「昭和ジャズ大全~幻の名盤・秘蔵盤~」 ※美空ひばり、中村八大、秋吉敏子、ジョージ川口らの演唱を収録
「美空ひばり 宙(そらから)」(DVD)
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「美空ひばり 宙(そらから)」(DVD)
「美空ひばり 青春アワー」
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「美空ひばり 青春アワー」
「ミソラヒバリ リズム歌謡を歌う 1949-1967」
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「ミソラヒバリ リズム歌謡を歌う 1949-1967」
「美空ひばり 極(きわみ)ベスト50」
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「美空ひばり 極(きわみ)ベスト50」
「ひばり&川田 in アメリカ 1950」
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「ひばり&川田 in アメリカ 1950」
「なかにし礼と75人の名歌手たち」
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「なかにし礼と75人の名歌手たち」
「さくらの唄」 ※5月29日発売
「さくらの唄」 ※5月29日発売

 アイドル・ポップスの過去現在未来に思いをはせる当コーナー「Girls!Now」、今回から新シリーズに突入する。日本コロムビアのプロモーション・マネージャー、三谷順一さんの登場だ。105年もの歴史を誇る同社だけに、女性シンガーも星の数ほどレコーディングを残している。李香蘭、二葉あき子、淡谷のり子、島倉千代子、都はるみ、ちあきなおみ、いしだあゆみ、弘田三枝子……歌謡の王道が勢ぞろいだ。そして僕にとっては内藤洋子、松原智恵子、久美かおり、榊原郁恵、河合奈保子などが名唱を残してきたアイドル・ポップスの名門としても印象深い。この4月には、創立以来初のアイドル・レーベル「Label The Garden」を始動。アイドル・ファンの視線を集めている。

 僕が三谷さんと初めてお仕事をしたのは、2010年のことだ。昭和30~40年代の日本人ジャズ・ミュージシャンによる貴重な演奏をCD化するプロジェクトの監修に、声をかけていただいたのである。3枚組『昭和ジャズ大全~幻の名盤・秘蔵盤~』は幸いにも良く売れた。その後も、五月みどりさんの取材でお世話になったり、いろんなライヴ会場でお目にかかったりしたが、まとまったお話を聞くのは今回が初めてだ。第1回は日本コロムビア最大のスターにして、戦後日本の大衆音楽に携わる者であれば避けて通れぬ不世出のディーヴァ、美空ひばりの話題を中心にうかがった。

―― 僕が子供の頃、美空ひばりさんはすでに「演歌の女王」というイメージでした。でも『ミソラヒバリ リズム歌謡を歌う 1949ー1967』での4ビートや8ビートのリズムに乗った歌の数々、この春にリリースされた『美空ひばり 青春アワー』に入っているペレス・プラード楽団との共演ライヴ(1956年)などを聴くと、むちゃくちゃキュートなんです。欧米のガール・ポップスと並べたくなるんです。DVD『美空ひばり 宙(そらから)』に入っている日野皓正さんとのジャム・セッション、あのスウィング感にも圧倒されました。

三谷 ふーん……。ひばりさんに限った問題じゃないんだけど、いろんな音楽を好む人がいるし、ひばりさんはクラシックやジャズのファンにも聴かれているけれど、若い人にはとくに王道の歌謡曲を聴いてほしいというのが一番の思いですね。一番有名なところ、まずそこを押さえてほしい。何を歌ってもすごい方なんですが、なんといっても圧巻は《柔》、《リンゴ追分》、《お祭りマンボ》であり、《川の流れのように》である。まず長年評価されてきたものをしっかり知ってほしいというのが僕の考え方なんです。そういう意図で『美空ひばり 極(きわみ)ベスト50』も編集しました。  

―― (曲目を見て)《娘船頭さん》、《大川ながし》、《お島千太郎》」、存じ上げておりません。

三谷 知ってほしいですね。ひばりさんに関しては、まずこの50曲を押さえてほしい。

―― 三谷さんが昭和40年代、数あるレコード会社の中から日本コロムビアに入社されたのは?

三谷 CBSレーベルがあるからコロムビアに入ろうと思ったんです。1968年に入社が決まって、最初はバイトで出入りしてたんですけど、その頃に資本自由化になって、外資比率が50%になっても操業ができるようになり、そしてCBSがソニーさんと合弁会社を作りました(CBSソニー)。僕はそうなることも知らずに、ボブ・ディランやブルーノ・ワルターやブラザーズ・フォアがいる憧れのCBSレーベルがある会社ということで日本コロムビアに入社したんです。もちろん美空ひばりさんや舟木一夫さんが所属する会社だということも知っていました。

―― レコード会社が時代の先端を行っていた時代、という印象を受けます。

三谷 僕らの世代は音楽が憧れの対象でした。一所懸命ラジオを聴きながら、水原弘さんや坂本九さんの歌詞を書きとったり、レコード店で聴かせてもらったり。コロムビアだけじゃなくてビクターも東芝も憧れでしたよ、でも第一にCBSレーベルだったですね。レナード・バーンスタインもいたし……。マイルス・デイヴィスを好きになったのは少し後ですけど。20代の半ばでジャズに興味を覚えました。

―― 三谷さんに僕が初めてお目にかかってから7~8年が経つと思いますが、そのときはほとんどジャズの話でした。

三谷 僕は29歳の時から5年ほど、コロムビア本社でジャズを担当していました。洋楽販売課にいたときに、アメリカのabcレーベルとの契約が成立して、その中にインパルスがあった(※ジョン・コルトレーンやキース・ジャレット等が名盤を残している)。それをかじ取りできる人間が必要で呼ばれたんです。

―― ひばりさんのレコーディングをご覧になったこともある、ともうかがいました。

三谷 2回、ありましたね。でもキューを振るんじゃなくて、見学にいった感じです。いつもそうかは知らないですけど、僕が見たときは同時録音。オーケストラをスタジオに入れて、そこでひばりさんが一緒に歌って。みんなすごい緊張感で、ピリピリしてましたね。

―― 今も日本コロムビアからは、まるで生きている人であるかのように、ひばりさんの作品が出続けています。

三谷 亡くなってもう28年になるのかな。だけど現役の時に負けないくらい、たくさん出てるかもしれないですね。

―― 未発表録音『ひばり&川田 in アメリカ 1950』の内容の良さ、音質の生々しさにも息をのみました。

三谷 これはうれしい発見でしたね。《東京キッド》(50年7月発売)が流行る前のライヴです。《悲しき口笛》(49年9月発売)がヒットした後、ひばりさんはアメリカまで行くようなスーパースターにいきなりなったんです。公式には一度もレコーディングされなかった《唄入り観音経》が入っていたのにも驚きました。もともと三門博さんの浪曲なんですが、それを13歳のひばりさんが見事に演じています。

―― 13歳ですか! しかも、ただ若いだけとか人気・話題先行ではなく、音程の良さやリズム感の良さという底力があるから、なお素晴らしいです。

三谷 せんだんは双葉より芳しというだけじゃなくて、当時は雪村(いづみ)さんを聴いても笠置(シヅ子)さんを聴いても、尋常ではない耳の良さを感じます。今の歌手に比べて歌に対する打ち込み方が違うのかもしれません。誰でも歌手になれる時代ではなかったですし、オーディションやレコード会社も少なく、ハードルも高い中で、半端じゃない努力をしたんでしょう。ひばりさんにしても、天から降りてくるからあれだけ歌えるというだけじゃなくて、すごい猛練習をして、いろんな音楽を聴きまくり、そこに特別な耳の良さが加わって“美空ひばり”という唯一無二の存在になったんだと思いますよ。音楽学校に行ったり英才教育を受けた後にデビューしているわけじゃないですからね。戦前の流行歌手は東京音楽学校などを出られた方が過半数で、その歌謡界に戦後、こういう形でひばりさんが出てこられた。すごいことですよ。今も元気だったら、60代、70代でも生きておられたら、もっと幅広い音楽を歌っていただろうと勝手に思ってますけどね。

―― 今後、ひばりさん関連のリリースにはどのようなものがありますか?

三谷 ひばりさんの誕生日である5月29日に、毎年記念的なものを出しているんです。今年のこの日は、なかにし礼さん作詞の「さくらの唄」をシングルで発売します。

―― なぜ、この曲を?

三谷 去年、なかにし礼さんの作品集を発売しました。新録音の『なかにし礼と12人の女優たち』と、作詞家生活50周年のボックス・セット『なかにし礼と75人の名歌手たち』です。社員の多くが、なかにしさんのファンになり、今年の5月29日は、ひばりさんが、なかにしさん作詞の曲を歌ったものから選んでシングルで出そうと決めました。《さくらの唄》はいわゆる隠れ名曲で、作曲は三木たかしさん。2006年に亡くなられた久世光彦さん(演出家、小説家、実業家、テレビプロデューサー)が「マイ・ラスト・ソング」という本の中で、最後にこの歌を聴きたいと書いておられる。久世さんは最初に三木さんの歌った《さくらの唄》を偶然聴いて、感銘を受けられて、ひばりさんの歌で聴きたいと思って、ひばりさんに歌ってくれるように頼んだんです。ひばりさんは快諾して、当時シングル・レコードも出たんですが、ヒットには至らなかった。今度のCDシングルでは、《さくらの唄》をひばりさんがギターの伴奏で歌っている“ギター・バージョン”を1曲目に入れて、オリジナル・バージョンの《さくらの唄》も収録しています。ギター・バージョンはマスターテープを調査していた時に発見した未発売作品です。

―― ギターだけの伴奏ですか。どんな味わい深い世界になっているのか、想像するだけでわくわくします。 [次回6/27(月)更新予定]