内山:可視化されていないものは世の中に非常に多くあるんじゃないかと思っています。壁を一つ隔てた家の中がどうなっているのか、人の心の中がどうなっているのか、本当のところは誰にもわからない。時に本人にもわからない。こぼれ落ちていくものをすくい取ろうという思いがあります。それに本来当たり前に、誰にでも平等に優劣なく流れているはずの時間も、社会的な事情や経済的な事情がたったひとつあるだけで、時間すらも平等でなくなってしまいます。そういった感覚を物語に内包したいと思いました。
磯村:彩人は、もはやどうしようもなさとかやるせなさを感じてはいないんです。自分の口からこうしたいとか、声を出すところに辿(たど)り着けないほど置かれている状況が精いっぱい。呼吸するだけで空気が重いようなシーンが多く、彩人として存在するのがつらい時もありました。
岸井:日向も感情はあるはずなのにそれを表に出さずに耐えている。我慢をしているのがつらくて演じながら何度も叫び出したくなりました。
映画文化を交流・交換
──内山さんは是枝裕和監督らとともに日本映画界の未来を考え、映画界の共助制度を目的とする「action4cinema/ 日本版CNC設立を求める会」の運営メンバーに名を連ねている。また本作はフランス、韓国、香港の出資を受け、各国が自国での配給権を持ち、最終的な音の調整はフランスで行われた。
内山:この話をすると長くなりそうなので手短にしますが、グローバルに見れば、日本のエンターテインメント業界は経済活動の内の約10%でしかありません。どんなに素晴らしいものを制作してもこのままでは産業として衰退してしまう。いまの状況に身を委ねるだけでは恐らく変わらない。国内情勢や経済活動を豊かにすることができることがクリエイティブの力だと僕は思っているので、今回は国際的なコミュニケーションも含め、まずはやってみないと、とトライしました。現場での困惑も特になかったです。こちらをすごくリスペクトしてくれて、求めることを後押ししてくれる体制でとてもありがたかったです。