内山監督が8年前から温めてきた本作。磯村さん、岸井さんはじめ俳優&スタッフ全員の熱量と勢いを感じる現場だったという(撮影/写真映像部 東川哲也)
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 内山拓也監督の新作映画「若き見知らぬ者たち」。若者の閉塞、社会の理不尽な暴力にさらされる叫びを体現した磯村勇斗さん、岸井ゆきのさん、内山監督との鼎談が実現した。AERA 2024年10月14日号より。

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──難病を患う母の介護をしながら、亡き父の借金返済に追われる彩人(磯村勇斗)。ヤングケアラーとして自分の夢を諦めたいま、総合格闘家としてタイトル戦を目前に控える弟の壮平(福山翔大)と、恋人の日向(ひなた、岸井ゆきの)の存在が唯一の支えだ。

内山拓也:脚本は2016年から書き始めましたが、その過程で前作「佐々木、イン、マイマイン」を制作し終えた時にも思ったこと──作品自体のことではなく、個人的な思いとして、自分の視界には視野外や背後があることを知り、それまで見過ごされてしまっている人たちの名前も輪郭もない感情を目の前のたった一人に向けて届けよう、と考えました。同時に、見ず知らずの人や世界の反対側にいる人も実は同じような感情を知っていて、わたしたちの苦しみや喜びを感じているのではないか。最も個人的なことを描くことでグローバルに同じ感情を分かち合えるのではないか。そんな思いで本作を書きました。

磯村勇斗:脚本を読んだとき、主人公の彩人が物語の半ばで消えて、彼の思いを弟の壮平が受け継いでいく構成が素晴らしいと思いました。物語の中で生きている全員が誰一人欠けることなくそれぞれの人生を生きている。それを紡ぎ出した内山監督の作家性に惹(ひ)かれたんです。

時間すらも平等でない

岸井ゆきの:私もまず読み物として感激しました。私が演じる日向はいろいろなことを受け止めすぎて、ずっと何かを「持ち続けている」人。難しい役だなと思ったのですが「とにかくやりたい!」と思える脚本でした。

──病状が悪化してゆく母に振りまわされ、昼も夜も休まることのない彩人。「もうみんな限界だって」と言う弟の将来のために、荒れた台所で一人声を殺して泣く彩人の叫びは、周囲に届かない。さらに理不尽な暴力が彩人を襲う。衝撃的な展開だが、内山監督が友人から聞いた実話がベースになっているという。

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