スイッチバックとは、列車が坂路を上るために進行方向を変えながら進む運転方式。箱根登山電車は計3回行いながら、険しい箱根の山々を上っていく。しかも、沿線は急カーブが多く、列車は車輪を激しく軋ませながら曲がる。車両、スイッチバック、急カーブ……。箱根登山電車は、鉄道の魅力がぎっしりつまった「幕の内弁当」と、笑う。
秋の鉄道旅の魅力は?
「ワクワクするけれど、だんだん季節が冬になっていくので、ちょっとだけ寂しくて。郷愁というか、車窓を見ているとキュンとします」
吉川さんが最後に挙げる「わたらせ渓谷鐵道」は、そんな鉄道の一つ。桐生(群馬県桐生市)~間藤(まとう、栃木県日光市)間、約44キロ。渡良瀬川の渓谷に沿って走る第三セクターだ。
「とにかく『渓谷鉄道』なので紅葉がとても素晴らしくて」
列車は、木々の間から見え隠れする渡良瀬川に沿い山間へと進んで行く。始発から終点まで、高低差は約550メートル。紅葉のピークが各所で異なり、長いスパンで紅葉を楽しめる。
そして、木造の「渋い駅」が多く、途中下車もオススメだという。中でも「神戸(ごうど)駅(群馬県みどり市)」。黒塗りの木造駅舎で、駅に隣接し、かつて東武鉄道で活躍していた特急車両「デラックス・ロマンス・カー」を活用したレストランもある。
秋の山あい、高い空に風が吹く。
「空気もおいしいです」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2024年10月14日号より抜粋