スマホの活用で「無駄」を削減 

 愛媛県東部で救急医療と急性期医療を提供しているHITO病院は、医師を含めた医療スタッフの働き方改革に取り組んできた。理事長の石川賀代医師はこう話す。

 地方では人口が減少する中で、スタッフの確保は切実な課題です。働き手に選ばれる環境を整えないと集まらない、という現実があります」

 スタッフの負担を減らすには、業務を効率化する必要がある。効率化の一つが「業務端末としてスマートフォン(以下スマホ)を活用すること」だった。
 

輸液バッグをスマホで読み取る。スマホ導入の際、チャット利用は強制しなかった。当初は緊急時以外も電話を使うスタッフが多かったが、徐々にチャットの利便性が浸透。現在はチャットが大半を占めている。(写真=HITO病院提供)

 看護師や薬剤師などの医療職は、医師の指示や承認を得なければ進められない業務が多い。それまでは他の多くの病院と同じようにPHSによる通話を連絡手段にしていたが、診察室の医師に電話をかけてもなかなかつながらず、何度もかけ直すなど時間と手間がかかっていた。

 また医師は病室などで電話を受けると個々のデータを確認するために仕事を中断してパソコンのある場所までいちいち移動しなければならないなど、負担が大きかったという。

 そこで2020年から医療スタッフ全員にスマホを貸与。業務用チームチャットを通して連絡を取る方法を導入した。チャットに医師宛ての連絡を入れておけば、医師は回診の合間や、エレベーターの待ち時間など自分のタイミングでメッセージを返すことができる。返答までの時間が短縮されたため、業務全体がスムーズに流れるようになった。

「カルテの内容や、心電図などの画像を共有できるのもスマホのメリットです。理学療法士がリハビリの動画を送り、医師の指示を仰ぐこともあります。業務用チームチャットを使い多職種で情報共有ができるため、チーム医療も進めやすくなりました」

 

薬剤処方箋の確認もスマホで行う(写真=HITO病院提供)

 スマホは十分なセキュリティー対策を施しており、病院が許可したスタッフにのみ、院外からもカルテ情報などを確認できる。休日の回診などはデータを事前に見たうえで、出勤すべきか指示でいいかの判断ができるので、ワーク・ライフ・バランスは格段に向上した。

「病院全体の年間時間外労働時間も、導入前の19年と比較して33%削減(23年実績)できました」(石川医師)

 24年から医師の時間外労働時間の規制が始まったが、すでに全員年960時間以内におさまっていたため、慌てることはなかったという。

「ICT(情報通信技術)を活用すれば、効率的に働ける。子育て介護による時短勤務など、多様な働き方にも対応しやすくなりました。病院も社会の変化に柔軟に対応し、変わっていかなければならないと感じています」(同)

 

「ICTをうまく活用して、多様な働き方に対応したい」と語る/HITO病院理事長・石川賀代医師


花﨑和弘(はなさき・かずひろ)医師/高知大学医学部附属病院病院長。1984年新潟大学医学部卒業。信州大学外科(消化器外科学)や関連病院で研鑽を積む。2000~01年、米国ベイラー医科大学へ留学。06年から高知大学外科学講座教授。22年4月から現職。

石川賀代(いしかわ・かよ)医師/1992年東京女子医科大学卒業後、同大学病院入局。2000年医学博士取得。02年に石川病院(現HITO病院)入職。10年院長に就任。12年HITO病院を開設し、理事長に就任。

(文/谷わこ)

※AERAムック『医学部に入る2025』より

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