分業制の導入で外科医一人ひとりの負担は大幅に軽減した。それぞれが集中して手術を行うことができ、ミスが起こりにくくなるなど医療の安全にもつながっている。(写真=高知大学医学部附属病院提供)
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 2024年4月にスタートした、「医師の働き方改革」。時間外労働の法規制でクローズアップされたこの問題に、何年も前から独自の対策を行ってきた病院があります。その取り組みとはどのようなものなのでしょうか。『医学部に入る2025』(朝日新聞出版)より紹介します。

 

【写真】花﨑和弘医師

外科医のワーク・ライフ・バランスを確保

 手術を扱う外科は長時間労働になりがちで、ワーク・ライフ・バランスの確保が難しい。高知大学医学部附属病院では、2006年から「手術の分業制」を導入し、外科医の負担軽減を図ってきた。病院長で消化器外科医の花﨑和弘医師はこう話す。

「手術は一人の執刀医が最初から最後まで通しで行うのが一般的です。高度な医療を担う大学病院では長時間に及ぶ手術も多く、 執刀医にかかる負担は少なくありません。ただしどんなに大変な手術でも、すべての工程が難しいわけではなく、経験が浅い医師ができるところもあるんですね」

 分業制では、一つの手術を、難易度別にいくつかに分け、各医師の技量や経験に応じて担当を振り分ける。若手医師にもできることをやってもらうことで、それまで一人で全工程を執刀していた医師は難しいところだけを担当すれば済むようになり、確実に負担を軽減できたという。

 分業制には働き方改革だけでなく「若手医師を育てる」という大事な役割もある。かつては執刀を担当できるのは教授か、せいぜい准教授や講師クラスの中堅まで。若手医師はなかなか腕を磨く機会がなかった。

 分業制では若手のうちからどんどん手術を経験させるので、技術を身につけるスピードが速い。ベテラン医師に見てもらいながら手術をし、マスターしたら、次の手術では一段階上の工程を担当する……というように着実にステップアップできる。

 一方、ベテラン医師にとっても若手の指導は自身の勉強になる。早く一人前に育てれば自分も楽になるので、分業制の導入に反発はなく、むしろ歓迎されたという。

「若手医師のモチベーションも確実に向上しました。外科を目指す医師は手術がうまくなって人を助けたいと思っているので、チャンスを与えれば、うまくなろうと勉強しますし、患者さんに向き合う姿勢も変わってきます。働きがいにつながり、外科離れを食い止めてくれると思います」
 

術後の管理は集中治療部に任せる

 手術の分業制と並んで外科医の負担軽減に貢献したのが、術後管理の役割分担だ。以前は術後の経過を見るため外科医が病院に泊まり込むのが通例だったが、現在は術後、状態が安定したら集中治療部の医師や看護師に引き継ぎ、外科医は帰宅。急変時は集中治療部から外科医に連絡がいく、という流れをルール化した。

「こうした対策に加え、ふだんから効率的に仕事をしてオンオフをしっかり分けるよう指導を徹底したことで、時間外労働を大きく減らすことができました。だらだら残っている医師はいないし、子育て中の女性医師も働き続けることができています。24年の4月から働き方改革が始まり、当院で時間外労働時間が月100時間を超えた医師は、4月は2人、5月は0、6月は1人のみ。その中に外科医は含まれていません」

 花﨑医師はこう続ける。

「外科の手術は、40年以上外科医をやってきた私でもいまだに一人前になった感覚がないくらい奥が深く、達成感があります。魅力がある診療科だからこそ、『きつそう』というイメージで諦めるのは、もったいない。働く環境はワーク・ライフ・バランスを大切にする時代に合わせて変わってきていますから、ぜひ挑戦してほしいと思っています」

 

「働く環境は時代に合わせて変わってきている」と語る、高知大学医学部附属病院病院長・花﨑和弘医師(写真=高知大学医学部附属病院提供)
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