先に開かれたトークセッションで、あなたたちはアフリカというブランドをそもそも愛しているのだろうかと質問した男性がいた。顔を覚えていた私は、後日会場内で彼を見つけ、アフリカの異なる国どうしが助けあうことの必要性を感じているかたずねた。ジャーナリストであり編集出版人でもあるナイジェリア人のオルワセイ・アデゴケ・アデイェモ氏は、こう答えた。
「もちろんです。アフリカの国境というのは、植物の細胞膜のようなもの。境目にはなっているものの、遮ることなくいいことも悪いことも通します。どこか一カ所で悪いことが起これば、いずれアフリカ全体に行き渡る。アフリカは一つの大陸です。だから、私たちは常にまとまって、それぞれの問題に対応し続ける必要があるのです」
オルワセイ氏からの問いに対する、登壇者からの返答が、強く印象に残っている。
「当然、その必要があります。アジアでも、ヨーロッパでも、(一つの大きな地域をまとめてブランディングすることを)実現したことはありません。言葉が違う。文化が違う。それでも、互いに認め合い、助け合う必要があります」
別の質問者から、ではその手法はと問われると、ハネコム氏は、少し顔を赤らめてこう答えた。「やってみるしかありません。ただ、やってみるしかないんです!」
答えなどわからない。まだ他のどのアフリカの国でも、他のどの大陸でもやったことなどないのだから。でも、やってみるしかない。私がハネコム氏の立場なら、きっと同じ返答をしたと思う。
INDABAの会期を終えたダーバンを後にし、私たちはドラケンスバーグ地方を訪ねた。私は、泊まったホテルで働く従業員のジョナス氏と仲良くなり、ホテルのバーで酒を交わしていた。よもやま話を続けるなかで、彼はぼそっと、こう言った。
「多様であることは、美しいことです」
この時に彼が意味したのが、南アの歴史を振り返ってのことなのか、アフリカ全体を鳥瞰してのことなのかは、私が酔っていたこともあって、わからない。ただいずれにせよ、多様であることは、確かに、美しい。
私は、「アフリカ」という観光ブランドの旗手として、南アはふさわしい国だと思う。今すぐに実現できなくたっていい。なにせ30年以上も続いている催しだ。少しずつじっくりと多様性を深めていった先に、さらなる美しい姿が見えることを、期待してやまない。
岩崎有一(いわさき・ゆういち)
1972年生まれ。大学在学中に、フランスから南アフリカまで陸路縦断の旅をした際、アフリカの多様さと懐の深さに感銘を受ける。卒業後、会社員を経てフリーランスに。2005年より武蔵大学社会学部メディア社会学科非常勤講師。ニュースサイトdot.(ドット)にて「築地市場の目利きたち」を連載中