東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 石破茂新内閣が発足した。とはいえ9日に解散ですぐ総選挙となる。

 発足即解散の日程に批判が相次いでいるが、総裁選の宣伝効果が大きかった以上、すぐ選挙に入るのは自民党として合理的な判断だ。当欄では繰り返しているが、問題はむしろ、国民のほとんどが参加できない一党の党内選挙を、あたかも国全体のお祭りかのように報道してしまうメディアの姿勢にある。やはり政権交代の緊張感がないとダメなのだ。

 そのためには野党が強くなる必要がある。来たる総選挙はその絶好の機会でもある。

 新首相には早くも逆風が吹いている。株式市場は厳しい判断を下した。アジア版NATOは非現実的と批判されている。1日の記者会見では裏金事件の再調査に消極的姿勢を示し、失望を買っている。そもそも自民党は夏まで支持率を大きく落としていた。野党躍進の可能性は十分にあろう。

 石破氏は右派の高市早苗氏に競り勝って総裁になった。他方で総裁選直前には立憲の代表選が行われ、左派の枝野幸男氏が敗れ野田佳彦氏が選ばれた。総選挙は中道同士の対決となる。ここで立憲が柔軟に他党と連携し中道右派の自民批判票を取り込めれば、野党再生の道が開けることになる。

 二大政党制のモデルは長いあいだ米国だった。しかしその米国では極端な左派と極端な右派が対立し大統領選が機能不全に陥っている。我が国が目指すべきは、税制や外交の現実的な連続性を保ちつつ、中道の二大政党が切磋琢磨し、たがいに腐敗を監視しあうような穏健な二大政党制であろう。今回そのような未来が(かすかに)見えてきたことはたいへん喜ばしい。

 最近の政治学では左派的な立場から中道を批判する議論がある。左右のバランスを取るだけでは社会は変えられないと言うのだ。

 趣旨は理解できるが、その手の議論はあまりに抽象的なように思われる。中道とはバランスのことではない。多様な生活者を尊重する態度のことだ。世の中には右派も左派もいる。彼らが合わさって社会が営まれている。与党も野党もその実感を忘れてはならない。

AERA 2024年10月14日号

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東浩紀

東浩紀

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

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